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刑事責任能力と無罪の関係|責任能力はどのように判断されるのか

2022年06月23日
  • その他
  • 刑事責任能力
刑事責任能力と無罪の関係|責任能力はどのように判断されるのか

令和3年9月、佐賀県鳥栖市で高齢女性を殺害した容疑で長崎県内の大学生が逮捕される事件が発生しました。この事件では、除草作業をしていた高齢女性の頭部をハンマーで複数回殴って殺害したのち、大分県内まで逃走して現地で警察に自首するなど、行動に不明な点も多いことから事件当時の精神状態を詳しく調べる必要があるとされたのです。

容疑者の精神状態を詳しく調べる必要があるのは「刑事責任能力」の有無が問題となるからです。過去にも刑事責任能力の有無が争われた事例は数多く、そのなかには生後一カ月の男児を暴行死させるなどの重大な結果を招きながらも、「無罪」が言い渡されたケースも存在しているのです。

本コラムでは、「刑事責任能力」とはどのような意味なのか、無罪とはどのような関係があるのかについて、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。

1、刑事責任能力とは

殺人事件などのような重大事件を報じるニュースでは「容疑者の刑事責任能力が争点になる」といった表現が使われることがあります。
まず、そもそも法律上の「刑事責任能力」とは何を意味するかについて、解説します。

  1. (1)「刑事責任能力」の意味

    「刑事責任能力」とは、「自身が犯した罪について刑事責任を負うだけの能力をもちあわせているかどうか」を意味する、法律上の用語です

    罪を犯せば刑罰が下されて償わなければならないということは、だれもが当然に理解していることだ、と思われる方もいるでしょう。
    一般的に、人には、自らの行動について「良いことなのか、悪いことなのか」「法律や道徳が許す行為なのか」を判断する能力が備わっていると考えられます。

    「良いことなのか、悪いことなのか」を判断する能力を法律用語で「事理弁識能力」といいます。
    また、「法律や道徳が許す行為なのか」を判断したうえで、自らの行動を律する能力を「行動抑制能力」といいます。

    刑事責任能力の有無は、「事理弁識能力」と「行動抑制能力」が備わっているかどうかで判断されるのです。

  2. (2)責任年齢|14歳未満の者の行為は処罰されない

    刑法第41条では、刑事責任能力の有無を判断する年齢が定められています。
    14歳未満の者は刑事責任能力が認められないので、たとえ罪にあたる行為があったとしても処罰されません。
    少年法上の取り扱いにおいても、14歳未満の者は「触法少年」に分類され、児童福祉法の措置が優先されることになっています。

  3. (3)「心神喪失」と「心神耗弱」

    責任年齢に達している者の刑事責任能力の有無を決めるのが「心神喪失」と「心神耗弱」です。
    刑法第39条には、次のように明記されています。

    • 心神喪失者の行為は、罰しない。(第1項)
    • 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。(第2項)


    「心神喪失」とは、精神の障害によって事理弁識能力または行動抑制能力が失われている状態のことをいいます
    具体的には、重度の精神疾患や知的障害などによって精神障害を引き起こしており、善悪の区別や自らの行動を制御できない状態が該当します。
    「心神耗弱」とは、精神の障害によって事理弁識能力・行動抑制能力を著しく欠いている状態です

2、責任能力がない=無罪?

刑事責任能力の有無が問われる事件では、容疑をかけられた被告人が「無罪」を主張して、それが認められるかどうかに注目が集まることが多々あります。
凄惨(せいさん)な殺人事件を起こしても無罪判決が下されたといったニュースが大々的に報道されるため「責任能力がなければ無罪になる」と理解している方も多いでしょう。
以下では、責任能力の有無と「無罪」の関係について解説します。

  1. (1)責任無能力が判明すれば無罪が言い渡される

    刑法第39条1項に明記されているとおり、心神喪失が認められた場合は「罰しない」ため、たとえ罪を犯したことが事実であっても、裁判官が無罪を言い渡すことになります。
    刑事責任能力がないことを「責任無能力」といいます。

    令和3年版の犯罪白書によると、令和2年中に全国で開かれた刑事裁判の第一審で、心神喪失を理由として無罪が言い渡されたのはたったの5人でした。
    つまり、心神喪失が認められる可能性は極めて少ないのです

    なお、裁判ではなく検察官による捜査の段階で、心神喪失を理由にして刑事裁判が提起されずに不起訴処分となった人の数は367人でした。
    無罪になった人の数よりも多いように思われるかもしれませんが、こちらも、不起訴処分となった人の全体に占める割合ではわずか0.2%であり、ごく例外的な事例であるとみなせるでしょう。

  2. (2)部分・完全責任能力と判明すれば有罪

    心神耗弱は、事理弁識能力・行動抑制能力を著しく欠いているものの、完全に失っているとはいえない状態です。
    刑法第39条2項が明記しているとおり、その刑事責任は「減軽することができる」という程度にとどまるため、無罪にはなりません
    これを、心神喪失による責任無能力と対比して、「部分責任能力」といいます。

    部分責任能力が認められた場合は、裁判官の判断によって「減軽」されます。
    減軽とは、刑事裁判において刑罰を言い渡す際に、法定刑を一定の割合で減じる処分です。
    たとえば、死刑が減軽される場合は、無期の懲役・禁錮、または10年以上の懲役・禁錮となります。

    心神喪失と心神耗弱のどちらにも当てはまらないことは、「完全責任能力」といいます
    具体的には、精神の障害がない、あるいは精神の障害があっても事理弁識能力・行動抑制能力がありもしくは著しく欠いているとはいえなかったりする状態のことになります。
    完全責任能力が認められると、刑事責任能力の有無を理由として無罪判決や減軽を受けることはできません。

3、責任能力の有無を判断する方法やタイミング

刑事責任能力の有無は、いつ、誰が、どのようにして判断するのかについて解説します。

  1. (1)精神鑑定によって責任能力の有無を判断する

    刑事責任能力の有無は「精神鑑定(刑事責任能力鑑定)」によって判断されます。
    精神鑑定とは、検察官や裁判官といった法律家が法的な判断を下すときに、精神障害に関する専門知識と経験を補うために精神科医に依頼して実施する鑑定のことです。

    検察官や裁判官はあくまで法律の専門家であり、精神医学に関する知識は有しているわけではありません。
    そのため、精神医学の知識と経験をもつ医師に依頼して、対象者の精神障害の有無や程度を判断してもらったうえで、意見を得る必要があるのです。

    精神鑑定の結果は、検察官が起訴・不起訴を判断する場面や、裁判官が有罪・無罪を決する場面において、信用性の高い判断材料として活用されることになります

  2. (2)起訴前の鑑定

    警察・検察官が逮捕した容疑者について、起訴・不起訴を判断するために実施するのが「起訴前鑑定」です。
    起訴前鑑定は「簡易鑑定」と「本鑑定」に分かれており、実施される内容がそれぞれ異なっています。

    ● 簡易鑑定
    警察によって逮捕されると、最大48時間の身柄拘束を経て検察官に身柄が引き継がれたのち、さらに検察官によって最大24時間の身柄拘束を受けたうえで「勾留」されることがあります。
    勾留の期限は原則10日間、延長を含めて最長で20日間となります。この期間に実施されるのが、「簡易鑑定」です

    簡易鑑定では、医師の問診を中心に精神障害の有無や程度が確認されます。
    あくまでも簡易的な鑑定ですが、1回につき数時間程度しか要しないため捜査上の負担が少なく、鑑定を受ける容疑者の負担も軽いため、積極的に活用されています。

    ● 本鑑定(起訴前本鑑定)
    起訴前の段階で通常の勾留とは別に、精神科病棟や拘置所に容疑者の身柄を留置しておこなわれるのが「本鑑定」です。
    本鑑定のためにおこなう留置を「起訴前鑑定留置」といい、勾留が一時的に停止します

    本鑑定に要する期間はおおむね2~3カ月であり、継続的な観察や脳の画像検査・血液検査・脳波検査といった医学的な検査によって、精神障害が事件に与えた影響が鑑定結果として報告されます。

  3. (3)起訴後の鑑定

    「刑事裁判により罪を問うべき」と判断した検察官は、容疑者を「起訴」します。
    起訴された容疑者は、それまでは「被疑者」という扱いだったのが「被告人」という扱いに変わり、刑事裁判を待つ身としてさらに勾留されることになります。

    起訴後の段階で実施される精神鑑定は、被告人側の弁護人からの請求によって実施されるのが一般的です
    検察官はすでに簡易鑑定・本鑑定によって「刑事責任能力がある」と判断したうえで起訴に踏み切っているため、その判断に対抗するかたちで、精神鑑定を求めることになるのです。

    起訴後は、公判に先立って争点を明らかにしたうえで証拠を厳選して審理計画を立てる「公判前整理手続」において精神鑑定を実施するケースが多く、これを特に「公判前鑑定」と呼びます。
    また、市民のなかから無作為に抽出した「裁判員」が参加する裁判員裁判における公判前整理手続で実施される鑑定については、裁判員法第50条にもとづくことから「50条鑑定」ともいいます。

4、責任能力なしで無罪になった後はどうなる?

心神喪失によって責任無能力であると判断されると、犯罪の事実があったとしても刑事裁判で無罪が言い渡されます。
しかし、「無罪になれば、事件前のように日常生活に戻れる」ということにはならないのです

  1. (1)医療観察法の適用を受けて必要な措置が講じられる

    一定の重大事件を起こしたうえで心神喪失を理由に無罪が言い渡された場合には、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(通称:医療観察法)」の適用を受けます。

    対象となる犯罪は以下の通りです。

    • 放火罪(現住・非現住・建造物以外のすべてで未遂を含む)
    • 強制わいせつ罪、強制性交等罪(未遂を含む)
    • 準強制わいせつ罪、準強制性交等罪(未遂を含む)
    • 監護者わいせつ罪、監護者強制性交等罪(未遂を含む)
    • 殺人罪、自殺関与罪、同意殺人罪(未遂を含む)
    • 傷害罪
    • 強盗罪、事後強盗罪(未遂を含む)


    これらの犯罪では、たとえ無罪判決が言い渡されても、検察官の請求によって最長3カ月にわたる鑑定入院を強いられます
    鑑定後は裁判所で審判が開かれ、必要に応じて入院・通院などが命じられるため、裁判官の判断によっては長期にわたる措置入院を余儀なくされて、社会復帰が遅れてしまうおそれもあるのです。

  2. (2)素早い社会復帰には弁護士のサポートが必須

    心神喪失や心神耗弱の影響で事件を起こしてしまったのであれば、適切な鑑定によってその影響を明らかにして、刑が減免されるべきです。
    また、刑事責任能力が否定されて無罪判決を受けた場合でも、長期の措置入院を命じられてしまえば社会から隔離された生活が続くことになります。

    刑事事件を起こしてしまった方の素早い社会復帰を実現するためには、弁護士によるサポートが不可欠です

    検察官が精神鑑定を実施しなかった、あるいは起訴前の鑑定で事実と異なる意見が提出されていたといったケースでは、弁護士の請求によって、起訴後の鑑定を実施する必要があります。
    心神喪失を理由に無罪となった場合には、審判に先立って生活環境を整えるなどの対応を尽くすことで、長期の措置入院を回避できる可能性が高まるでしょう。

5、まとめ

精神障害が原因で善悪を判断する能力や法律などに照らして行動を制限する能力が失われた状態を「心神喪失」といい、これらを著しく欠いた状態を「心神耗弱」といいます
心神喪失の状態なら刑事責任能力がないため無罪となり、心神耗弱の状態なら刑事責任能力が限られるため刑が減軽されますが、心神喪失・心神耗弱が認められるケースは極めて少ないといえます。
さらに、心神喪失を理由として無罪が言い渡されても、裁判官の判断次第ではその後に長期の措置入院を強いられるおそれがあるため、社会復帰が遅れてしまう可能性が高いのです。

ご家族が刑事事件を起こしてしまった場合には、刑事責任能力の有無に関わらず、早期から弁護士に依頼することが大切になります

長崎県内にご在住の方は、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスにまでご相談ください。
必要な鑑定の請求や刑事裁判における弁護、無罪後の審判における付添人としてのサポートを行うなど、素早い社会復帰を実現するための弁護活動を行います。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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