遺留分を払わないとどうなる|払わないリスクと確認すべきこと

2024年09月30日
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遺留分を払わないとどうなる|払わないリスクと確認すべきこと

自筆の遺言書は、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造や変造を防止するため、家庭裁判所で検認手続を行う必要があります。令和5年に長崎県内の家庭裁判所で行われた検認手続は207件でした。

検認手続を経て、相続人全員で遺言書の内容を把握することになりますが、その際に、遺留分の侵害が発覚して、他の相続人から不足分を請求(遺留分侵害額請求)されることがあります。しかし、「遺言者の意志どおりに財産を受け継ぎたい」「遺留分侵害額を支払える資金がない」などの理由で支払いが困難だと感じるケースも少なくありません。

本コラムでは、遺留分侵害額請求を受けた場合の対処法や、請求を無視した場合のリスクについて、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。

出典:「令和5年司法統計年報家事編」


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1、遺留分とは|遺留分を侵害するとどうなる?

最低限の相続分が保障される遺留分とはどのような制度なのか、遺留分の計算方法、遺留分侵害が起きた場合の対応について解説します。

  1. (1)遺留分とは何か?

    遺留分とは、相続人全員の公平性を守るため、被相続人(亡くなった方)による自由な財産の処分を一部制限し、特に身近な相続人に最低限の遺産を保障する制度です。

    遺留分が認められる相続人は、以下に限られ、兄弟姉妹は対象外です。

    • 被相続人の配偶者
    • 被相続人の子
    • 被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)


    民法で定められた法定相続分の一部が遺留分として確保されます。さらに、相続人の構成によって違いがあります。

    具体的な「遺留分割合」は、以下のとおりです。

    • 直系尊属のみが相続人になる場合は法定相続分の「3分の1」
    • それ以外の場合は法定相続分の「2分の1」


    たとえば、以下のケースでは、法定相続分と遺留分割合は以下のようになります。

    相続人:配偶者、長女、長男
    【配偶者】法定相続分2分の1・遺留分割合4分の1
    【長女・長男】法定相続分4分の1ずつ・遺留分割合8分の1ずつ
  2. (2)遺留分の計算方法

    遺留分の計算は、相続財産の総額を基礎とし、以下の計算式で算出します。

    遺留分の金額=(遺産総額+生前贈与など)×遺留分割合


    基礎となる遺産総額は、相続開始のとき(被相続人が亡くなったとき)に存在する被相続人の財産の額から「借金」などの負債を差し引き、「生前贈与・遺贈分」を加味して計算します

    遺留分の算定で基礎となる財産に算入される贈与などは、以下のとおりです。

    • 相続開始前の1年間になされた相続人以外への贈与
    • 相続開始前の10年以内になされた「特別受益に該当する贈与」
    • 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与(不当に安く財産を売却するような行為も同様)


    「特別受益に該当する贈与」とは、特定の相続人が婚姻、養子縁組または生計の資本として受けた贈与のことをいいます。

    生前贈与が特別受益に該当するか否かは、贈与の当事者の財産や生活の状況などから「遺産
    の前渡し」と評価できるかという点で判断が分かれることになり、相続で争いになりやすいポイントでもあります。

  3. (3)遺留分侵害額は金銭で補償する

    遺留分を侵害する遺贈や贈与がなされた場合、侵害額相当の金銭を支払うよう請求することができます

    たとえば、(1)の事例のように、配偶者と長女、長男の3人が相続人になるケースで、「遺産1000万円は、すべて配偶者に相続させる」旨の遺言があれば、長女と長男は遺留分を侵害されたことになります。

    この場合、長女と長男は配偶者に対して、遺留分算定の基礎となる財産の「8分の1」に相当する「125万円」を請求することができます。

  4. (4)支払いが難しい場合はどうすればいい?

    遺留分侵害額の請求を受けても、すぐに支払うことが難しいこともあります。

    特に、財産の大部分が自宅などの不動産であったような場合は、すぐに資金を用意できないケースもあるでしょう。

    遺留分侵害額は、請求される側にとって不測の支出となるケースも少なくないことから、支払い期限について、相当な期限の許与を求めることができることになっています。

    期限の許与は、裁判手続の中で裁判所が判断することを想定した規定ですが、当事者間の話し合いや調停手続の中で、支払い期限に余裕をもたせて合意することも考えられます。

2、遺留分を支払わないとどうなる?

遺留分の侵害が発生したとしても、遺留分権利者が侵害額請求をしない場合は、特に対応する必要ありません。

しかし、遺留分侵害額請求がなされてこれを無視すると、以下の手続に進展する可能性があります。

  1. (1)調停や訴訟を起こされる

    遺留分侵害額請求は、借金の請求などと同様に、法律上の権利に基づくものなので、請求を無視すると裁判手続を起こされる可能性があります

    ただし、いきなり裁判所を介した訴訟となるわけではなく、まず家庭裁判所で「調停」を行う必要があります。

    家庭裁判所の調停は、調停委員の仲介によって話し合いにより解決を目指す手続です。話し合いで合意が成立した場合は、合意の内容に従って支払いなどを行うことになりますが、合意が成立しない場合は、調停手続は打ち切られて終了します。

    その後、地方裁判所もしくは簡易裁判所に訴訟が提起されれば、訴訟手続で請求の当否が判断されることになります。

  2. (2)最終的に財産が差し押さえられる

    遺留分侵害額に関して、調停で支払いについての合意が成立し、もしくは訴訟手続における判決で支払いを命じられたにもかかわらず、これに従わない場合、最終的には財産の差し押さえを受けることがあります

3、遺留分の請求を受けたときに確認すべきこと

遺留分請求を受けた場合に確認すべきポイントについて解説します。

  1. (1)遺留分権利者(相続人)による請求か

    遺留分がある相続人は、兄弟姉妹以外の法定相続人で、被相続人の配偶者、子、直系尊属(父母、祖父母など)に限られています。

    しかし、以下に該当する場合は相続人であっても相続権がないため、遺留分侵害額請求はできません

    • 廃除:被相続人に対する虐待や重大な侮辱などの著しい非行により、家庭裁判所の審判により相続権を剥奪された場合
    • 相続欠格:被相続人を殺害するなど生命身体を侵害したり、遺言に関して不当な干渉をしたりして相続で利益を図り、相続権を失った場合
    • 相続放棄:相続人が借金を相続したくないなどの理由により、家庭裁判所で相続放棄の申述をした場合
  2. (2)ほかに遺留分侵害額を負担すべき人がいないか

    遺留分侵害額の支払義務を負うのは、遺言により利益を受けた人(受遺者)か、贈与により利益を受けた(受贈者)です。

    それぞれが、負担する順序は以下のように定められています

    • 受遺者と受贈者がいる場合:受遺者が先に負担する
    • 受贈者が複数人の場合:後になされた贈与の受贈者から順次負担する
    • 受遺者や受贈者(同時になされた贈与)が複数人の場合:受益額の割合に応じて負担する


    受遺者や受贈者が複数人いる場合は、負担すべき順序に従って請求がされているか確認する必要があります。

  3. (3)請求額の算定根拠は適切か

    遺留分の算定は揉めやすいポイントですが、特に争点になるのは以下の点です。

    ① 遺産の評価
    不動産や非上場株式などの資産は、相続開始時点での金銭的価値を評価する必要がありますが、評価の方法で意見が分かれることがあります。

    たとえば、不動産の評価額は、固定資産税評価額と実勢価格(取引価格)など複数の指標がありますが、評価額が大きく異なることが多く、どの評価額を用いるかで争いになるケースもあります

    ② 遺留分算定に生前贈与額などが算入されている場合
    遺留分算定に生前贈与などが算入されると、遺留分侵害額も大きくなりますが、その贈与額が遺留分に反映されるべきか否かは、証拠などにより慎重に検討する必要があります。

    特に特別受益に該当する生前贈与の主張がされている場合は、贈与の時期や内容により個別の判断が求められることになるため、一般の方にとっては対応が難しいと感じられるかもしれません。判断が難しい場合は、弁護士のアドバイスを受けて対応することをおすすめします

    ③ 請求者に特別受益がある場合
    遺留分権利者が特別受益に該当する生前贈与を受けていた場合、特別受益の額を差し引いて遺留分を算定します。

    遺留分権利者が遺贈を受けた場合も同様です。遺留分から控除される特別受益は、相続開始前10年間のものに限らず、過去のものすべてが対象となりますが、見落としやすいポイントなので注意が必要です

  4. (4)時効が成立していないか

    遺留分権利者が相続の開始と遺留分を侵害する遺贈や贈与があったことを知ったときから1年経過すると、遺留分侵害額請求権は時効が成立します。また、相続開始から10年経過すると請求権は消滅します。

    ただし、1年以内に内容証明郵便で遺留分侵害額請求について履行を催告されると6か月間時効の完成が猶予されます。時効期間が経過した後でも、遺留分侵害額請求権があることを認めてしまうと、時効はリセットされるので、対応には注意が必要です。

4、遺留分に関するトラブルで弁護士に相談するメリット

遺留分侵害額請求を受けた場合は、弁護士に相談して対応することをおすすめします。
その理由は以下のとおりです。

  1. (1)請求額が適正か検討してもらえる

    遺留分は法律上認められた権利なので、遺留分権利者である相続人の請求を拒むことは基本的にできないと考えるべきです。

    しかし、請求額が適正であるかは慎重な検討が必要です。遺留分の計算は複雑で、生前贈与の有無やその内容、遺産の評価方法などを考慮した上で、
    適正な金額を算定する必要があります。

    弁護士はこれらの要素を法律的な観点から分析し、遺留分権利者へ分与すべき適正な金額についてアドバイスすることが可能です。

  2. (2)和解交渉のサポート

    遺留分侵害額請求を受けた場合、まずは当事者間で話し合いをして解決を目指すのが一般的です。

    しかし、遺留分を巡るトラブルでは、「遺産を独り占めされた」とか「被相続人の財産を使い込んだ」など、お互いに不信感を抱いて感情的な対立に発展することも珍しくありません。
    弁護士は、代理人として和解交渉を代行し、建設的な話し合いにより解決することが期待できます

  3. (3)調停や訴訟を委任することができる

    話し合いによる解決が難しい場合は、調停手続や訴訟手続が必要になることもあります。

    調停手続や訴訟手続では、遺留分侵害額の算定に争いがある部分について、法的に主張を構成して証拠を提出しなければなりません。

    弁護士は、調停手続や訴訟手続でも代理人として手続を進めることが可能で、必要な証拠の準備についてもサポートします

5、まとめ

遺留分は、被相続人でも制限することができない相続人の権利なので、遺留分侵害額請求がなされた場合は、これを拒むことはできません。

ただし、遺留分の算定は被相続人が生前に行った贈与などの要素を考慮する必要があり、とても複雑です。

遺留分侵害額請求を受けた場合は、請求額をよく精査する必要があり、弁護士など専門家のサポートを受けて、主張できることはしっかりと主張するのが賢明です。

ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスでは、相続全般の問題に関するご相談を承っております。まずはお気軽にご相談ください。

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