遺産分割における、預貯金の分け方のルールを解説

2022年09月27日
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遺産分割における、預貯金の分け方のルールを解説

長崎市が公表している人口に関する統計資料によると、令和2年における長崎市内の死亡者数は5185人でした。平成28年からの統計と比較すると、毎年同程度の方が亡くなっていることがわかります。相続は人の死亡によって開始するものであるため、長崎市内でも、一定数の相続が発生していると考えられるでしょう。

ほとんどの方は、金融機関に預貯金口座を開設しています。そのため、相続が発生した場合には、預貯金の相続手続きが必要になります。預貯金の相続というと「銀行の窓口に行って口座を解約するだけでは?」と思う方もいるかもしれませんが、相続人が複数存在する場合、いくつかの手続が必要になるほか、さまざまな注意点もあります。

預貯金の相続手続きを適切に行うためには、預貯金の相続に関する基本事項を押さえておく必要があります。本コラムでは、遺産分割における預貯金の分け方のルールについて、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。

1、預貯金で考えられる遺産分割方法

まず、預貯金の相続に関する基本的事項について解説します。

  1. (1)預貯金も遺産分割の対象となる

    「預貯金が遺産分割の対象になるのは、当然のことでは?」と思う方も多いでしょう。
    しかし、過去には、遺産分割協議などにおいて相続人が預貯金を相続財産に含めることに合意した場合を除いて、預貯金は遺産分割の対象にはならないとされていました。
    このような運用がされていたときには、被相続人が死亡すると相続人の法定相続分に応じて預貯金は当然に分割されることになりますので、相続人は自己の法定相続分については、単独で金融機関の窓口で払い戻しを受けることができていたのです。

    しかし、平成28年12月19日の最高裁決定により、預貯金も遺産分割の対象になるとの判断が下されました。それ以降は、預貯金も遺産分割の対象に含まれています。
    従来は法定相続分の範囲内であれば相続人が単独で払い戻しを請求することができた預貯金ですが、平成29年以降は、相続人全員の合意がなければ、自己の法定相続分の範囲内であったとしても原則として払い戻しに応じてもらうことができなくなったのです。

  2. (2)預貯金の分割方法

    預貯金を遺産分割によって分ける方法としては、以下のようなものがあります。

    ① 払い戻し後に現金で分ける
    被相続人が保有していた預貯金口座をすべて解約して、解約後の現金を法定相続人の法定相続分に応じて分けるという方法があります。
    法定相続分に応じた現金を分配することができますので、公平な遺産分割を実現することができる方法です。

    金融機関によっては、払い戻し後の預貯金を各相続人の口座に振り込んでくれるところもあります。しかし、そのような対応をしていないところでは代表相続人がすべての預貯金口座の払い戻し手続きを行って、各相続人への振り込み手続きを行わなければなりません

    ② 口座ごとに分ける
    被相続人が複数の口座を保有している場合には、各口座を相続人に分けるという方法があります。たとえば、A銀行の口座については長男に、B銀行の口座については長女に、C銀行の口座については次男に相続させる、といった方法です。

    口座ごとに分ける方法では、振り分けられた相続人が各自で払い戻しの手続きをすればよいため、代表相続人一人に負担をかけることはなくなります。しかし、それぞれの口座における預貯金額には、差異があるでしょう。残高の多い預貯金口座をもらった相続人と、少ない預貯金口座をもらった相続人との間で不公平な結果となることも多々あります
    このような場合には、その他の相続財産によって調整するなどの方法をとることも可能です。

2、預貯金相続での注意点

預貯金を相続する場合には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)被相続人の死亡により預貯金口座は凍結

    被相続人が死亡したことを金融機関が知った場合には、当該金融機関の被相続人名義の口座は、すべて凍結されてしまいます。凍結された場合には、たとえ相続人であったとしても自由に引き出すことができなくなってしまいます

    金融機関では、相続人からの申し出によって預貯金口座を凍結する場合が多いですが、新聞のお悔やみ欄などによって被相続人の死亡を知られたことで、預貯金口座が凍結される場合もあります。
    被相続人が死亡後に相続人によって勝手に預貯金の引き出しが行われると、相続人同士のトラブルに金融機関が巻き込まれてしまう可能性がありますので、そのようなリスクを回避するために、金融機関は口座の凍結を行うのです。

  2. (2)死亡後凍結前に預貯金を引き出すリスク

    被相続人の死亡が金融機関に知られると口座を凍結されてしまうため、凍結前に被相続人の口座から預貯金を引き出そうとする方もいます。
    しかし、そのような行為は将来の相続争いを生むリスクのある行為であるため、注意が必要です

    被相続人の死亡後は、預貯金を含む被相続人の財産は、相続人の共有状態となります。そのため、被相続人の死亡後に預貯金を引き出して勝手に使ってしまうと、他の相続人の権利を侵害することになります。後日に、不法行為や不当利得を原因として返還を求められる可能性もあるのです。
    預貯金を引き出す必要性がある場合には、他の相続人に相談したうえで行うか、後述する預貯金の払戻制度を利用するようにしましょう。

  3. (3)生活費や葬儀費用が不足する場合には仮払制度の利用を

    金融機関によって預貯金口座が凍結されてしまうと、遺産分割協議が成立するまでは原則として預貯金を引き出すことができなくなります。しかし、被相続人と一緒に生活していた相続人は、口座が凍結されることによって当面の生活費が不足する可能性がありますし、被相続人の葬儀費用としてまとまったお金が必要になることもあります。このような、相続人の資金需要に対応するため、民法改正によって新たに預貯金の仮払制度が導入されることになりました

    預貯金の仮払制度を利用することによって、相続人は、遺産分割前であっても金融機関の窓口で被相続人名義の預貯金の払い戻しを受けることが可能になります。もっとも、仮払制度を利用して払い戻すことができる預貯金には、上限があり、以下のいずれかの金額のうち低い方の金額までとなります。

    • 死亡時の預貯金残高×当該相続人の法定相続分×1/3
    • 150万円


    ただし、金額の上限は、金融機関ごとに設定されています。
    複数の銀行に口座を保有している場合には、それぞれの金融機関ごとの上限の範囲内であれば預貯金の払い戻しを受けることも可能です。

3、預貯金を分ける手順

遺産分割によって預貯金を分ける場合には、以下のような手順で行います。

  1. (1)預貯金口座の調査

    まずは、被相続人がどの金融機関に預貯金口座を保有しているかを調査しなければなりません。被相続人の自宅に預貯金通帳やキャッシュカードなどがあればそれを手がかりにして金融機関を把握することができます。

    このような手がかりがない場合には、最寄りの金融機関に行って預貯金口座の有無について確認をしてみるとよいでしょう。

  2. (2)遺産分割協議

    預貯金を含む被相続人の相続財産の調査が完了した後は、調査で明らかになった相続財産を対象にして、遺産分割協議を行います。
    遺産分割協議を有効に成立させるためには、相続人全員が遺産分割方法に合意をする必要がありますので、必ずすべての相続人を参加させなければなりません。

    遺産分割協議では、預貯金をどのように分割するのかを決めることになります。
    具体的には、払い戻しを受けた現金を法定相続分で分割をするのか、または各預貯金口座を相続人が取得するのかを決めることになるのです。

  3. (3)遺産分割協議書の作成

    遺産分割協議が成立した場合には、その内容を記載した遺産分割協議書を作成します。
    遺産分割協議書は、預貯金の払い戻しを受ける際に金融機関に提出する必要がありますので、必ず作成するようにしましょう。

    なお、遺産分割協議の成立自体は合意さえあれば良いのですが、その後の手続を行うためには実印での押印や印鑑証明書の添付等が必要になります。

  4. (4)預貯金の分配

    成立した遺産分割の内容に従って、預貯金の分配を行います。

    預貯金の払い戻しを受けて現金で分配する場合には、払い戻しを行う代表相続人を決めて、代表相続人が手続きを行います。
    各相続人が取得するという場合には、預貯金口座を取得した相続人が、各自で払い戻しの手続きを行うことになります。

4、遺産分割については弁護士へ相談を

遺産分割についてお悩みの方は、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)正確な相続財産調査が可能

    遺産分割を行う前提として相続財産調査が必要になります。相続財産調査が不十分で遺産に漏れがあった場合には、再度遺産分割協議を行わなければならないなどの負担が生じてしまいます。そのため、遺産分割においては、正確な相続財産調査が不可欠となるのです。

    弁護士であれば相続財産調査の方法を熟知しているため、相続財産に関する手掛かりが少ないという場合であっても正確に財産調査を行うことが可能です
    相続人がまったく把握していなかった財産が見つかる場合もありますので、相続開始後は、早めに弁護士に相談をしましょう。

  2. (2)スムーズな遺産分割協議を実現できる

    被相続人の遺産には、預貯金だけでなく、不動産や有価証券なども含まれることがあります。預貯金だけであれば、法定相続分に応じて分けることができますので、それほど大変ではありません。
    しかし、不動産などの物理的に分割することが困難な遺産が含まれている場合には、それをどのように分割するのかをめぐって、トラブルになることもあるのです。

    弁護士は、相続人の代理人として遺産分割協議に参加することができます
    弁護士が参加することで、相続人同士で争いのある遺産分割についても法律の専門家の見地から冷静に話し合いを進めることができます。したがって、当事者同士で話し合いをするよりもスムーズに遺産分割をすすめられるのです。

5、まとめ

預貯金は遺産分割の対象に含まれますので、被相続人の死後に預貯金の払い戻しを受けるためには、遺産分割協議を成立させる必要があります。
遺産分割の前提である相続財産調査や遺産分割協議については、弁護士に相談をすることできます

長崎県にお住まいで、遺産分割に不安がある方は、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスまでご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています