雇い止め・解雇・契約解除の違いとは? 企業が注意するべき点を解説

2021年08月16日
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雇い止め・解雇・契約解除の違いとは? 企業が注意するべき点を解説

長崎労働局が公表している報道資料・令和元年度「個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、令和元年度における長崎県内の総合労働相談件数は1万1501件であり、民事上の個別労働紛争相談件数は3476件でした。また、民事上の個別労働紛争のうち、雇止めに関する相談は97件であり、全体の2.2%を占める割合でした。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、業績の悪化に悩まされている企業が多いのではないでしょうか。業績回復の手段としては、人件費の削減が効果的であることから、契約期間を満了する予定の契約社員に対して、雇い止めを検討するケースがあるかもしれません。しかし、契約期間が満了したからといって、自由に契約社員を雇い止めにすることができるわけではなく、雇い止めには一定の制約があるため注意が必要です。

本コラムでは、雇い止めと解雇、契約解除の違いや雇い止めが無効になるケースについて、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。

1、雇い止めとは

雇い止めとは、どのようなケースのことを指すのでしょうか。本章では、雇い止めの概要と近年雇い止めが増加している背景について説明します。

  1. (1)雇い止めの概要

    雇い止めとは、契約期間の定めのある労働契約を締結している労働者に対して、期間満了によって労働契約を終了させて、契約の更新をしないことをいいます。
    そのため、契約終了のタイミングで更新を拒否すれば事足りると考えるかもしれません。しかし、何度も契約が更新されるなどして契約更新に一定の合理的期待が生じている場合には、契約期間満了による雇止めが無効になることがあるため注意が必要です(労働契約法第19条)。合理性期待の考え方については、後ほど詳しく説明します。

    なお、有期労働契約は、契約期間途中の解雇はやむを得ない事由がない限り認められておらず、解雇の規制が厳格になっているという点も、押さえておきたいポイントです(労働契約法 第17条)。

  2. (2)雇い止めが増加する背景

    厚生労働省が公表している「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」によると、令和3年5月28日時点までに新型コロナウイルスによる雇用調整により解雇などの見込みがある労働者数は10万4946人です。また、そのうち非正規雇用労働者(派遣労働者、契約社員、パート・アルバイトなど)の数は4万9037人にのぼるとされています。

    契約期間の定めのある労働契約を締結した非正規雇用労働者は、期間の定めのない労働契約を締結した労働者のような厳格な解雇規制に服することなく雇用関係を終了することができるため、景気変動に応じた雇用量の調整方法として広く利用されてきています。
    そのため、新型コロナウイルスの感染拡大による雇用調整の影響を強く受けていると考えられます。新型コロナウイルスの感染状況が落ち着かない限り、今後も非正規労働者が雇い止めによって職を失う状況が続くと考えられるでしょう。

2、雇い止めと解雇・契約解除の違い

雇い止めと似た制度に解雇・契約解除があります。では、雇い止めとこれらの制度とでは、どのような違いがあるのでしょうか。

  1. (1)解雇・契約解除とは

    解雇・契約解除とは、契約中に会社が労働者との雇用契約を一方的に解約することをいいます。
    期間の定めのない労働契約を締結している労働者を解雇する場合には、労働者の生活基盤を失わせる重大な処分であることから、労働契約法第16条によって、厳格な解雇規制がなされています。

    他方、期間の定めのある労働契約を締結している労働者を解雇する場合には、労働契約法第17条によって「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」と定められています。
    有期労働契約を締結している労働者は、契約期間中は雇用継続についての強い期待が生じていると考えられるので、期間の定めのない労働契約よりも厳格に解雇の有効性が判断されることになります。

  2. (2)違いと有効性の判断

    雇い止めも解雇・契約解除も労働者との労働契約を終了させるという点では共通します。
    しかし、解雇は、労働契約の途中に使用者からの解約権行使という法律行為によって終了するのに対して、雇い止めは有期労働契約の期間満了という事実によって終了するという点で異なります。

    なお、解雇・契約解除に対しては、労働契約法第16条および第17条によってその有効性が判断されるのに対して、雇い止めに関しては、労働契約法第19条で定められている、いわゆる「雇い止め法理」によってその有効性が判断されることになります。

3、雇い止めが無効となるケース

契約期間が存在しているからといって、期間満了を理由にいつでも契約を終了させることができるわけではありません。

  1. (1)雇い止め法理とは

    期間の定めのある労働契約は、契約期間が満了すれば、その時点で労働契約関係は終了するのが原則です。そのため、使用者が期間満了を理由に契約の更新をしないという選択をしたとしても、それが直ちに違法となるわけではありません

    しかし、雇用継続に対する労働者の期待を保護する必要性があるため、判例上、合理的理由がない雇い止めは無効と判断されてきました。これが、いわゆる「雇い止め法理」です。雇い止め法理は、労働契約法改正により労働契約法第19条に明文化されました。

  2. (2)雇い止めが無効とされるケース

    労働契約法第19条により、雇い止めが無効と判断されるのは次のようなケースです。

    • ① 長期にわたって有期労働契約が反復継続され、無期労働契約と実質的に異ならない状態に至った場合(労働契約法19条1号)
    • ② 相当程度の反復更新の実態から更新の合理的な期待が認められる場合(労働契約法19条2号)


    契約期間や契約更新回数などの具体的な基準は、法律上明らかにされていません。しかし、過去の判例からすると、雇い止めが無効となるかどうかについては、次にあげるような事柄を基準として判断することになると考えられます。

    • 業務の客観的内容(従事する仕事の種類、内容、勤務の形態)
    • 契約上の地位の性格(地位の基幹性、臨時性、労働条件に関して正社員との同一性の有無)
    • 当事者の主観的態様(継続雇用を期待させる当事者の言動、認識の有無や程度)
    • 更新手続き(契約更新状況、契約更新時の手続きにおける厳格性の程度)
    • 他の労働者の更新状況(同様の地位にある他の労働者の雇い止めの有無)
    • その他(有期労働契約を締結した経緯、勤続年数などの上限設定の有無) など

4、有期雇用従業員との契約についてお悩みの場合は弁護士に相談を

有期雇用従業員との労働問題でお悩みの際には、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)雇い止めの有効性について正確な判断が可能

    有期雇用契約の従業員を雇い止めすることは、企業にとっては、雇用調整手段として有効な手段といえます。しかし、契約期間が満了したからといって、常に雇い止めが有効になるというわけではありません。有期雇用従業員を雇い止めする場合には、雇い止め法理による法規制があることに注意が必要です。

    有効に雇い止めができるかどうかは、過去の判例によって示された判断要素を踏まえて慎重に判断していく必要があります。契約期間や更新回数など個別具体的な状況によって判断が変わってきますので、弁護士に相談するのが得策でしょう
    有期雇用従業員だからといって安易に雇い止めをしてしまうと、雇い止めの無効をめぐるトラブルに巻き込まれてしまう可能性がありますので、事前に弁護士に相談をしてから手続きを進めていくことをおすすめします。

  2. (2)顧問弁護士の利用によって労働者とのトラブルを予防できる

    『弁護士は何かトラブルが生じた場合に頼めばよい』と考えている経営者の方も多いと思います。しかし、実際にトラブルが生じた後では、社会的信用にもマイナスの影響が生じることがありますので、可能な限りトラブルを生じさせないための対策を講じることが重要です。

    ベリーベスト法律事務所には、労働問題を専門的に扱うチームが存在しており、長崎オフィスの弁護士も連携をしながら対応を進めています。そのため、企業と労働者との間のあらゆる問題について迅速かつ適切な解決に導くことが可能です。トラブルが生じた場合の解決だけでなく、トラブルが生じないためにどうしたらよいかは、企業の内部事情に精通している顧問弁護士であれば適切な対策を講じることが可能です

5、まとめ

新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、雇い止めによって職を失う非正規労働者の数が増えてきています。雇用調整によるやむを得ない措置であることが多いですが、企業としては、労働者から雇い止めの無効を主張されないように慎重に手続きを進めていく必要があります。

有期雇用従業員とのトラブルでお悩みの企業は、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスまでお気軽にご相談ください。長崎オフィスは、長崎電鉄の西浜町駅、新地中華街駅、出島駅、長崎駅と複数の駅から徒歩圏内の利便性が高い場所に位置しています。まずはご相談だけでも構いません。ぜひ、お問い合わせください。

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