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出向先での残業代(時間外手当)を負担するのは出向元? 出向先?

2022年10月25日
  • 労働問題
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出向先での残業代(時間外手当)を負担するのは出向元? 出向先?

令和2年に長崎県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働相談件数は、1万1487件でした。

従業員を出向させる場合、出向元と出向先の間で、残業代や賞与を含む給与の支払いについて取り決める必要があります。特に在籍出向の場合には出向元と出向者の雇用契約が維持されることになるため、所属先と実際の勤務先がずれることになります。この場合、給与支払いのパターンはさまざまなものとなり得ます。

従業員のモチベーションにも配慮しながら、適切な条件・支払い方法を定めるようにしましょう。本コラムでは、出向中の従業員に対する給与支払いについて、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。

1、在籍出向と転籍出向の違い

「出向」とは、労働者が出向元と何らかの関係を保ちながら、出向先との間において新たな雇用契約関係に基づき一定期間継続的に勤務する形態を意味します。
また、出向社員と元の会社との雇用契約が続くかどうかによって、「在籍出向」と「転籍出向」の2通りに分類されます。
以下では、在籍出向と転籍出向のそれぞれについて、概要を解説します。

  1. (1)在籍出向|雇用契約を維持したまま、別の会社で働く

    「在籍出向」とは、元の会社との雇用契約を維持したまま、別の会社で働くことを意味します。
    在籍出向においては、労働者と出向元との雇用契約関係は維持され、労働者の契約上の地位は変化しません

    給与を誰が支払うかについてはさまざまなパターンが考えられますが、トータルでの待遇は保障されるため、労働者の同意なく賃金等が引き下げられることは許されていません。
    その一方で、労働契約に基づく会社の人事権の範囲内であり、かつ出向命令に合理的な理由がある場合には、労働者は在籍出向を拒否できないという特徴があります。

  2. (2)転籍出向|雇用契約を終了させ、別の会社と雇用契約を締結して働く

    「転籍出向」においては、労働者と出向元との雇用契約関係は解消され、別の会社と新たに雇用契約を締結して働くことを意味します。
    単に「転籍」と呼ぶこともあります。

    転籍出向の場合、働く場所だけでなく、労働者の契約上の地位も変化します
    転籍先での労働条件も、元の会社における労働条件に拘束されず、新たな雇用契約に基づいて定めることができるのです。
    在籍出向と異なり、転籍出向は労働者の地位や待遇に与える影響が大きいことから、労働者の個別同意を得ることが必要になります。

2、出向者の給与を支払うのは出向元? 出向先?

「出向者の給与(基本給・残業代・賞与・出向手当など)は、出向元と出向先のどちらが支払うか」という点については、在籍出向・転籍出向のどちらであるか、また出向契約の内容などによって決まります。

  1. (1)在籍出向の場合|出向契約に基づいて支払者・負担者が決まる

    在籍出向の場合、出向元企業と出向先企業の間で締結される出向契約によって、労働者に対する給与の支払いルールを取り決めます
    労働者に対する給与の支払い方法としては、以下のようなパターンが存在します。

    1. ① 出向先企業が労働者に対して直接給与全額を支給する。
    2. ② 出向先企業が労働者に対して直接給与を支給する一方で、出向元企業が労働者に対して、出向前との差額を補塡(ほてん)する金銭を支払う。
    3. ③ 出向元企業が労働者に対して給与全額を支給する一方で、出向先企業が出向元企業に対して給与負担金を支払う。


    いずれのパターンでも、労働者が実際に働く出向先企業は、一定額の給与を負担することになります。
    そのうえで、出向先における待遇が出向元における待遇に及ばない場合には、②または③の方法によって、出向元が差額補塡を行うことがあるのです。

    なお、理論上は、上記のパターンのほかにも「出向元企業が給与全額を負担して、出向先企業は一切負担しない」という形とすることも考えられます。
    ただし、この場合には「出向元企業から出向先企業に対する経済的利益の無償の供与」に該当し、出向元企業が寄附金課税の対象となる点に注意が必要です(法人税法第37条)。

  2. (2)転籍出向の場合|出向先が支払う

    転籍出向の場合、労働者の雇用契約の相手方は、出向元企業から出向元企業へと完全に移行します。
    そのため、労働者の給与に関しても、出向先企業がその全額を負担して支払うことになるのです

3、管理監督者が一般社員として出向した場合の残業代の考え方

出向元企業では「管理監督者」として取り扱われていた労働者が、出向先企業では一般社員として勤務する場合、残業代の支払いに関して変化が生じる点に注意が必要です。

  1. (1)管理監督者には残業代が支払われない

    「管理監督者」とは、労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的立場にある者を意味します。
    裁量や権限などの観点から、労働時間の厳格な制限を及ぼすことが適当ではないため、管理監督者である労働者に対しては残業代の支払いが不要とされています(労働基準法第41条第2号)

    なお、単に肩書が「管理職」であるというだけでは、労働基準法上の管理監督者に該当するとは限りません。
    労働者が管理監督者に該当するかどうかは、以下の要素を総合的に考慮したうえで判断されるのです。

    1. ① 職務内容の重要性
    2. ② 職務上の責任・権限の重要性
    3. ③ 勤務態様が労働時間の規制になじむかどうか
    4. ④ 賃金その他の待遇が、管理監督者の地位にふさわしいかどうか
  2. (2)一般社員として出向した場合、残業代が発生する

    出向元企業では管理監督者であっても、出向先企業では職務内容・責任・権限などが変化し、管理監督者には該当しなくなる場合があります。

    労働者が管理監督者に該当するかどうかは、職務内容・責任・権限などの実質に照らして判断されます。
    そのため、出向先企業での勤務実態が管理監督者の要件を満たさない場合には、労働時間の規制の適用が免除されず、会社は残業代の支払い義務を負う点に注意してください

  3. (3)出向契約で取り扱いを明記しておくべき

    出向前後で管理監督者に該当するかどうかが変化し得る場合には、出向元企業・出向先企業間でのトラブルを防止するため、残業代の支払いについて出向契約で取り扱いを明記しておくべきです。

    出向先企業でも引き続き管理監督者として働かせる場合には、「管理監督者にふさわしい職務・責任・権限等を与えることを、出向先企業に義務付ける」という方法が考えられます。
    この方法をとる際には「出向先企業のミスによって管理監督者性が失われて、残業代の支払いが発生した」という場合には、出向先企業に残業代を負担させるのがよいでしょう。

    これに対して、出向先企業では一般社員として勤務させる場合には、残業代の発生が想定されます。
    この場合、「出向元企業と出向先企業の間の負担割合を取り決めるとともに、残業時間の上限などを合意して、残業代が予想外に膨らんでしまう事態を防ぐ」という方法が考えられます。

4、出向契約を締結する際の注意点

出向契約を締結する場合、「給与はどちらが負担するか」という点や出向元と出向先の労働条件のバランスに注意しながら、契約に定められる労働条件をよく確認する必要があります。
出向元企業・出向先企業の双方にとってメリットがあり、かつトラブルのリスクを抑えられるように調整しながら、最適な契約の締結を目指しましょう

  1. (1)出向期間と給与の負担者を明確化する

    出向契約における基本的な事項として、出向期間と給与の負担者について明確化しておく必要があります。
    出向期間については、始期と終期(いつからいつまで)に加えて、更新の有無や更新手続きに関してもルールを定めておきましょう

    給与の負担者については、基本給に加えて、残業代や賞与の取り扱いについても明記しておく必要があります。
    特に管理監督者から一般社員への移行などが想定される場合には、残業代の取り扱いについて出向元企業・出向先企業間で認識を共有しておくことが重要です。

  2. (2)出向元と出向先の労働条件のバランスに配慮すべき

    出向元企業と出向先企業の労働条件に大きな開きがある場合、労働者のモチベーションに影響を及ぼす可能性があります。
    出向先企業の待遇が出向元と比べて悪ければ、出向先企業における仕事に対するモチベーションが低下してしまうでしょう。
    反対に、出向先企業の方が出向元と比べて高待遇であり過ぎる場合には、将来的に出向元企業へ戻ってきた際のモチベーションが低下してしまうおそれがあります。

    労働者の仕事に対する意欲に悪影響を及ぼさないためにも、出向元企業と出向先企業の間では、労働条件が大きく変わらないようにバランスを取る必要があるのです

5、まとめ

出向には「在籍出向」と「転籍出向」の2種類があります。
在籍出向では出向元と労働者の雇用契約が維持されますが、転籍出向では出向元との雇用契約が終了して出向先との間で新たに雇用契約が締結されます。

在籍出向の場合、出向元と出向先の間で、労働者に対する給与の支払者・負担者などを取り決めなければなりません。
また、労働者のモチベーションに悪影響を与えないように待遇のバランスを取ることや、出向元と出向先の間のトラブルを防止することも必要になります。
さまざまな点に考慮しながら、合理的かつ明確なルールを定めることが大切です。

ベリーベスト法律事務所では、労働者の出向や労務管理に関して、企業や経営者からのご相談を受け付けております
労務管理に関するお悩みやトラブルをお抱えの企業経営者や担当者の方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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