「名誉回復措置」の方法や、名誉毀損に対してとれる対応を解説
- 誹謗中傷・風評被害
- 名誉回復措置
令和4年(2022年)12月、長崎県をホームタウンとするサッカークラブが、SNS上で選手が誹謗中傷を受け、あわせて原爆に関連して長崎県民を差別する内容の投稿がなされたことを看過できないとして、名誉毀損(きそん)の疑いで警察に被害届を提出しました。
インターネットやSNSなどで名誉毀損がなされると、またたく間に情報が拡散してしまい、深刻な被害を受けることがあります。名誉毀損の被害を受けた場合には、名誉回復措置をとることによって、被害の回復を図れます。また、名誉回復措置のほかにも、投稿者への民事または刑事上の責任追及をすることも可能です。
本コラムでは、名誉毀損の被害を受けた場合に名誉回復措置を行う方法や事例などについて、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。
1、名誉回復措置とは
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(1)名誉回復措置の定義と法的根拠
名誉回復措置とは、インターネットやSNSなどの投稿や書き込みなどにより名誉毀損の被害を受け、社会的評価が低下してしまった場合に、社会的評価の回復を目指して行われる措置をいいます。
名誉毀損の被害を受けた被害者は、社会的評価が低下したことによる不利益や精神的苦痛に対して損害賠償請求という形で被害の回復を図ることができます。
また、民法723条では「損害賠償請求に代えて、または、損害賠償請求と一緒に名誉回復措置を行うことができる」と規定されています。 -
(2)名誉回復措置の方法
名誉回復措置の方法には、法律上特に決まりがあるわけではありませんが、一般的には、以下のような方法により名誉の回復が図られます。
ただし、金銭的な賠償により被害者の損害が回復されたと判断される場合には、名誉回復措置までは認められないこともあります。① ホームページに謝罪広告の掲載
加害者がホームページ上で被害者の名誉を毀損する表現を行った場合には、加害者のホームページに謝罪広告を掲載する方法での名誉回復措置がとられることがあります。
以下の方法でも共通しますが、「情報の発信源において、謝罪や訂正を行うことが最も合理的であると考えられる」ことから、このような措置がとられるのです。
② 新聞に謝罪広告の掲載
新聞は多くの人が目にする広告媒体であるため、新聞に謝罪広告を掲載することで、より効果的に名誉の回復を図ることができます。
新聞社において名誉毀損の表現がなされた場合にも、自社の媒体である新聞に謝罪広告を掲載する方法で、名誉回復措置が行われます。
③ 加害者側のメディアに謝罪広告の掲載
週刊誌やテレビなどのメディアによって名誉毀損が行われた場合には、当該メディアに謝罪広告が掲載されることがあります。
2、名誉回復措置の実例
以下では、名誉回復措置が認められた事例とそうでない事例について紹介します。
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(1)名誉回復措置が認められた事例(東京地裁平成13年9月5日判決)
週刊誌において、女性アナウンサーが学生時代にランジェリーパブでアルバイトしていたという内容の記事が複数回掲載されました。
掲載された女性アナウンサーは、週刊誌の内容が虚偽であるとして、慰謝料の支払いおよび謝罪広告の掲載を求めて、裁判所に訴えを提起したのです。
裁判所は、週刊誌の内容が虚偽であることを認定し、週刊誌の紙面上に、以下のような条件での謝罪広告の掲載を命じました。- 5分の2ページ(縦9㎝×横15.5㎝)
- 文字の大きさは、紙面本文の通常の文字の倍角による
また、実際の謝罪文は、裁判所が指定した、以下の文面での掲載が命じられています。
おわびと記事の取り消し
当社発行の「週刊現代」一九九九年九月二五日号に、「学生時代の<恥>アルバイト テレビ朝日の新人美人アナは『六本木のランパブ嬢』だった」との見出しのもとに、テレビ朝日のアナウンサーであるAさんが、学生時代に六本木のランジェリーパブでアルバイトをしていたとの記事を掲載しましたが、そのような事実は全くありませんでした。
事実無根の記事を掲載し、Aさんの名誉を著しく傷つけたことについて、深くおわびするとともに、右記事をすべて取り消します。
株式会社講談社
代表取締役 ○○○○
A様 -
(2)名誉回復措置が認められなかった事例(神戸地裁平成20年11月13日判決)
月刊誌において、北朝鮮による日本人拉致問題について社民党の対応が十分ではなかったとする記事のなかで、当時の社民党党首が朝鮮半島の出身者であることおよび本名が朝鮮人命であることを指摘しました。
掲載された国会議員は、人格権侵害を理由として、慰謝料の支払いと謝罪広告の掲載を求めて、裁判所に訴えを提起したのです。
裁判所は、氏名や出身地などの価値中立的な事実を摘示するものであっても、人格権侵害を生じるとして、名誉毀損を認め、出版社に対して慰謝料の支払いを命じました。
しかし、以下のような理由から、本件記事が与える影響力はほとんどないものとして、謝罪広告の掲載は否定しています。- 本件記事掲載誌の実売部数は、約4万部にとどまる
- 本件記事内容は新聞広告や電車内吊り広告などに表示されていなかった
- 本件掲載誌の表紙にも記事内容は表示されていなかった
3、名誉を傷つけられた場合にできる、そのほかのこと
名誉を傷つけられた場合には、名誉回復措置以外にも、以下のような手段をとることができます。
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(1)削除請求
インターネット上の投稿や書き込みによって名誉毀損の被害を受けた場合には、当該投稿や書き込みの削除を請求することができます。
削除請求の方法には、具体的には以下のようなものがあります。① 投稿者に対する削除請求
インターネットやSNSなどへの投稿者に連絡がとる場合に、投稿者に直接に削除請求することができます。
ただし、場合によっては削除に応じてくれないだけでなく、さらに悪質な書き込みをされてしまうなどのリスクもあることに注意が必要です。
② サイト管理者に対する削除請求
インターネット掲示板などでは、専用の削除フォームを設けている場合あります。
そのようなサイトでは、削除フォームを利用して、サイト管理者に対して削除請求をすることが可能です。
③ 記事削除の仮処分の申立て
裁判外の方法では、記事の削除が難しいという場合には、裁判所の仮処分という手続きを利用します。
仮処分では、裁判とは異なり迅速に判断が下されますので、被害が拡散する前に記事を削除できる可能性があります。 -
(2)損害賠償請求
インターネット上の記事によって名誉を毀損され、社会的評価が低下するなどの被害を受けた場合には、社会的評価の低下による損害や精神的苦痛に対する損害の賠償を求めることができます。
ただし、損害賠償請求をするためには、加害者を特定する必要があります。
週刊誌や新聞などによる名誉毀損であれば相手方の特定は容易ですが、インターネット上での名誉毀損は、匿名で行われることがほとんどですので、そのままでは相手を特定することができません。
このような場合には、発信者情報開示請求という方法により、投稿者を特定してから損害賠償請求を行う必要があります。 -
(3)刑事告訴
他人の名誉を毀損した場合には、名誉毀損罪という犯罪が成立します(刑法230条)。
名誉毀損罪が成立した場合、加害者には3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
ただし、名誉毀損罪を理由として、加害者に刑事上の責任を負わせるためには、刑事告訴が必要になります。
刑事告訴をしても自身の名誉を回復できるわけではありませんが、「加害者の刑事責任を追及したい」という場合には、警察に相談してみることも検討しましょう。
4、名誉を傷つけられ被害が出ているなら弁護士に相談を
名誉毀損の被害を受けた方は、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)名誉回復措置により社会的評価の回復を図ることができる
誹謗中傷や名誉毀損におり名誉を傷つけられた場合、慰謝料などの損害賠償請求だけでは被害回復の手段として不十分であることがあります。
このような場合には、謝罪広告の掲載などの名誉回復措置を検討する必要があります。
加害者に対して、名誉回復措置を命じるためには、訴訟提起まで必要になることも多く、専門家である弁護士のサポートが必要になります。
名誉を傷つけられ被害が出ている場合には、早い段階から弁護士に相談することが大切です。 -
(2)加害者に対して法的責任追及ができる
加害者への責任追及をするためには、まずは、名誉毀損をした加害者を特定する必要があります。
しかし、インターネット上での名誉毀損の場合、匿名による表現のため加害者の特定が難しいことがほとんどです。
このような場合には、発信者情報開示請求の手続きが必要になります。
発信者情報開示請求をするためには、仮処分や裁判といった法的手段が必要となる場合もあります。
一般の方だけでは、非常に難しい手続きになりますので、弁護士のサポートを受けましょう。
5、まとめ
名誉を傷つけられた場合には、謝罪広告の掲載などによる名誉回復措置請求によって、被害の回復を図ることができます。
しかし、名誉回復措置は、必ず認められるものではありません。
専門家である弁護士に相談しながら、適切な対応を検討することが大切です。
名誉を傷つけられてしまい、回復措置や加害者の責任追及を講じたいと希望される方は、まずはベリーベスト法律事務所 長崎オフィスまでお気軽にご相談ください。
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