重責解雇とは? 懲戒解雇とは違う? 失業保険や再就職における注意点
- 不当解雇・退職勧奨
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長崎労働局が公表している令和2年度の「個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争相談件数は、3484件であり、過去最多の相談件数でした。そのうち解雇に関する相談が548件あり、3番目に多い数字となっています。
会社から懲戒解雇をされた場合には、再就職をするために就職活動を行うことになりますが、就職活動期間中の生活費として、失業保険を受給することが考えられます。しかし、会社から渡された離職票に「重責解雇」と書かれていた場合には、失業保険の受給において不利益を受けることがあるのです。
「懲戒解雇」と「重責解雇」は、似たようなものに見ても、実はまったく別ものです。これらの違いを正確に理解しておかなければ、失業保険の受給や再就職にあたって不利益を受ける可能性があることに注意してください。
本コラムでは、重責解雇と懲戒解雇の違いや、重責解雇になった場合の影響などについて、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。
1、重責解雇と懲戒解雇はイコールではない
まず、重責解雇と懲戒解雇の違いについて解説します。
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(1)重責解雇とは?
重責解雇とは、雇用保険法上の概念であり、労働者が自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇されたことをいいます。
重責解雇にあたるかそれ以外の解雇にあたるかは、失業保険の受給時に大きな影響を生じさせます。 -
(2)重責解雇になったのは、いつわかる?
解雇理由を重責解雇にするかそれ以外の解雇にするかについては、離職票を交付する事業主が第1次的に判断することになります。
そのため、会社を懲戒解雇された場合において重責解雇とされたか否かについては、会社から交付される離職票の「離職理由」欄を確認することによって知ることができます。重責解雇となっている場合には、解雇理由の「重責解雇(労働者の責めに帰すべき重大な事由)」の欄にチェックが入っています。 -
(3)重責解雇と懲戒解雇の関係
懲戒解雇とは、「労働者が企業秩序違反や重大な非違行為をしたこと」を理由として懲戒処分の一環としてなされる、労働契約法上の解雇のことをいいます。
この定義を見ると、重責解雇と懲戒解雇は同義なものだと思う方も多いかもしれません。
しかし、懲戒解雇は、使用者と労働者との間の労働契約を終了させる場面で問題となる労働契約法上の概念であるのに対して、重責解雇は雇用保険法上の概念であるという違いがあります。そのため、懲戒解雇になったからといって、必ず重責解雇になるとは限りません。懲戒解雇処分を受けたとしても、重責解雇にあたるかどうかは、別途判断されることになるのです。
2、重責解雇になり得るケース
重責解雇になり得るケースについては、雇用保険の業務取扱要領にその基準が記載されています。以下では、重責解雇になり得るケースについて、具体的に解説します。
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(1)刑法各本条の規定に違反し、または職務に関連する法令に違反して処罰を受けたケース
刑法で規定されている犯罪または行政罰の対象となる行為をしたことを理由に解雇された場合には、重責解雇になります。
「処罰を受けた」ことが必要になりますので、取り調べ中や裁判中など刑が確定していない場合はこれに該当しません。 -
(2)故意または重過失により事業所の設備または器具を破壊したケース
労働者の故意または重大な過失によって事業所の設備または器具を破壊したという場合には、重責解雇になります。
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(3)故意または重過失によって事業所の信用を失墜せしめ、または損害を与えたケース
労働者の言動によって事業主または事業所に金銭その他の物質的な損害を与えた場合や、信用の失墜・顧客の減少などによって無形の損害を与えたことを理由に解雇された場合には、重責解雇となります。
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(4)労働協約または労働基準法に基づく就業規則に違反したケース
労働協約や就業規則に規定された事項については、労働契約内容になりますので、労働者が守らなければならいものといえます。そのため、労働協約や就業規則に違反したことを理由として解雇された場合には、重責解雇になることがあります。
ただし、軽微な違反であれば重責解雇には該当しません。具体的には、事業主が解雇予告除外認定を受けて解雇予告および解雇予告手当支払い義務を免れる場合であって、労働者に以下のいずれかの行為がある場合に限り重責解雇にあたります。- ① 事業所内において窃盗、横領、傷害などの刑事事件に該当する行為があった場合(ただし、軽微なものは除く)
- ② 賭博、風紀紊乱(びんらん)などによって職場規律を乱し、他の労働者に対し悪影響を及ぼす行為があった場合
- ③ 長期間正当な理由なく無断で欠勤をし、出勤の督促に応じない場合
- ④ 出勤不良または出欠常ならず、数回の注意を受けても改めない場合
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(5)事業所の機密を漏らしたケース
事業所の秘密とは、事業所の製品、技術などの機密、事業所の経営状態、資産など事業経営上の機密に関する事項をいいます。
事業所の秘密は、労働者として当然守らなければならない事項ですので、機密漏えいを理由に解雇された場合には、重責解雇にあたります。 -
(6)事業所の名をかたり、利益を得または得ようとしたケース
事業所の名をかたって利益を得または得ようとする行為は、事業主に損害を与えない場合であっても詐欺罪または背任罪が成立する可能性があります。
そのため、このような行為をしたことを理由に解雇された場合には、重責解雇にあたります。 -
(7)他人の名を詐称し、または虚偽の陳述をして就職をしたケース
労働者が就職条件を有利にするために他人の履歴を盗用したり、技術・経験・学歴などについて虚偽の記載をして採用されたりしたのちに虚偽が発覚することは、いわゆる「経歴詐称」にあたります。
このような経歴詐称を理由に解雇された場合には、重責解雇にあたります。
3、重責解雇になった場合の影響
重責解雇になった場合には、失業保険の受給や再就職にあたって以下のような影響が及びます。
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(1)失業保険の受給への影響
重責解雇になった場合には、失業保険の受給にあたって以下のようなデメリットがあります。
- ① 失業保険の受給に必要な加入期間が長くなる
重責解雇の場合には、原則として離職前2年間の被保険者期間が12カ月以上あることが必要になります。他方、重責解雇以外の解雇では、離職前1年間の被保険者期間が6カ月以上あれば足ります。
このように、重責解雇されてしまうと、失業保険を受給するために必要となる被保険者期間が長くなるというデメリットがあります。 - ② 失業保険を受給するための待機期間が長くなる
重責解雇の場合には、7日間の待機期間に加えて、3カ月の給付制限期間を経過しなければ失業保険を受給することができません。他方、重責解雇以外の解雇の場合には、7日間の待機期間が経過すれば失業保険を受給することができます。
被保険者期間だけでなく、失業保険を受給するための待機期間が長くなるというデメリットもあるのです。 - ③ 失業保険の給付日数が短くなる
重責解雇の場合には、失業保険の給付日数は、雇用保険の加入期間に応じて90日から150日とされています。他方、重責解雇以外の解雇の場合には、年齢と雇用保険の加入期間に応じて90日から330日とされています。
このように、重責解雇されてしまうと、失業保険の給付日数も短くなってしまいます。
- ① 失業保険の受給に必要な加入期間が長くなる
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(2)再就職への影響
重責解雇がなされたかどうかは、「離職票」や「雇用保険受給資格者証」を見ることによって判明します。しかし、これらは失業保険を受給するためにハローワークに提出する書類です。通常は、就職活動において求職先の会社に提出するものではありませんので、重責解雇であったかどうかについて、求職先の会社に知られることはありません。
しかし、採用面接においては、退職の理由を聞かれることがあります。その際に、退職なのか解雇なのかを聞かれる可能性もあるのです。そして、「解雇された」と答えた場合には、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇のいずれであるかを聞かれる可能性が高いでしょう。
このとき、「懲戒解雇された」と答えた場合には、採用が見送られる可能性もあります。
一方で、就職を有利にするために履歴書に虚偽の記載をしたり、面接時に虚偽の内容を説明したりすることは「経歴詐称」にあたります。経歴詐称の事実が後日に判明した場合には、それを理由に解雇されるリスクもあるのです。
4、解雇事由に異議がある場合の対応方法
解雇事由に異議がある場合には、以下のような対応をとるようにしましょう。
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(1)ハローワークに異議申し立てを行う
会社から交付された離職票に「重責解雇」と記載されていたことに納得がいかない場合には、ハローワークに異議申し立てを行うことができます。
具体的には、離職票に「離職者記入欄」というチェック部分がありますので、ご自身が正しいと思う離職理由にチェックを入れてください。そして、「具体的事情記載欄(離職者用)」にただし離職理由を記載し、「離職者本人の判断」欄の離職理由に「異議有り」に丸を付けしょう。その際に、「具体的事情記載欄(離職者用)」の枠では小さすぎて詳細な事情が記載できないという場合には、「離職理由申立書」の交付を受けて、申立書に内容を記載してください。
上記の離職票および離職理由申立書をハローワークに提出すると、ハローワークが重責解雇にあたるかどうかを調査して、判断してくれます。 -
(2)そもそも解雇自体を疑う場合は、弁護士へ相談を
「そもそも解雇理由に納得がいかない」という場合には、不当解雇の可能性もあります。その際には、弁護士にまでご相談ください。
弁護士に相談をすることによって、解雇の経緯や理由から正当な解雇であったかどうかを判断することができます。もし不当解雇だったという場合には、弁護士が代理人となって会社と交渉を行い、解雇の撤回をしてもらえるようにサポートすることも可能です。
懲戒解雇となってしまうと、将来の再就職などにも影響が及ぶ可能性があります。少しでも「おかしい」と思った場合には、事実を確認することが大切です。
5、まとめ
懲戒解雇と重責解雇は、まったく別の概念です。また、懲戒解雇をされたからといって直ちに重責解雇になるわけではありません。異議申し立てなどによって争うことによって、解雇事由が訂正される可能性もあります。事実を確認したうえで、必要な場合には、しっかりと争っていくことが大切です。
長崎県にお住まいで、「会社から解雇されたけれど、納得がいかない」という方は、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスまでお気軽にご相談ください。
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