裁量労働制はやばい? 仕組みや未払い残業代の請求方法を紹介
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長崎労働局によると、長時間労働が疑われるとして令和4年度に長崎県内の労働基準監督署が監督指導を行った528事業場のうち、違法な時間外労働があったものは186事業場でした。
裁量労働制には、労働者にとって働き方の自由度が高まるメリットがあります。その一方で、労働時間が長くなりがちであるなどの理由で、「裁量労働制はやばい」などと言われることもあるので注意が必要です。
本記事では、裁量労働制の仕組みやデメリット、裁量労働制が違法となるケースなどをベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。
1、裁量労働制とは
裁量労働制とは、業務の進め方や時間配分などを労働者に委ねる代わりに、みなし労働時間を適用する制度です。
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(1)裁量労働制の仕組み
裁量労働制で働く労働者に対しては、業務の遂行手段および時間配分の決定などについて、使用者が具体的な指示をすることはできません。その結果、労働者には比較的自由な働き方が認められます。
その反面、裁量労働制で働く労働者には「みなし労働時間」が適用されます。実際の労働時間が長くても短くても、あらかじめ定められた時間内で働いたとみなされるので、残業代の額が変化することはありません(深夜手当を除く)。 -
(2)専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制
裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。
専門業務型裁量労働制は、以下の20職種に限って適用が認められます。専門業務型裁量労働制の導入に当たっては、労使協定の締結が必要です。- ① 新商品や新技術などの研究開発業務
- ② 情報処理システムの分析、設計業務
- ③ 記事取材、編集などの業務
- ④ 新たなデザインの考案業務
- ⑤ 放送プロデューサー、ディレクター業務
- ⑥ コピーライター業務
- ⑦ システムコンサルタント業務
- ⑧ インテリアコーディネーター業務
- ⑨ ゲームソフトの創作業務
- ⑩ 証券アナリスト業務
- ⑪ 金融商品の開発業務
- ⑫ 大学教授の業務
- ⑬ 公認会計士業務
- ⑭ 弁護士業務
- ⑮ 建築士業務
- ⑯ 不動産鑑定士業務
- ⑰ 弁理士業務
- ⑱ 税理士業務
- ⑲ 中小企業診断士業務
- ⑳ M&Aアドバイザリー業務
企画業務型裁量労働制は、事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析の業務について適用が認められます。専門業務型裁量労働制とは異なり、企画業務型裁量労働制の職種は限定されていませんが、対象業務は高い専門性を必要とするものであることが求められます。
企画業務型裁量労働制の導入に当たっては、労使同数で構成される労使委員会の決議が必要です。 -
(3)裁量労働制と固定残業代制(みなし残業代制)の違い
裁量労働制と固定残業代制(みなし残業代制)は異なる制度です。
裁量労働制ではみなし労働時間が適用され、労働時間がどれだけ増えても残業代が増えることはありません。
これに対して固定残業代制では、あらかじめ定められた固定残業時間を超えた場合は、超過部分の労働時間に追加残業代が発生します。
また、裁量労働制の労働者には業務上の広い裁量を与える必要がありますが、固定残業代制の労働者に広い裁量を与える必要はありません。さらに、裁量労働制は適用できる職種が限定されていますが、固定残業代制に職種の限定はありません。 -
(4)裁量労働制とフレックスタイム制の違い
裁量労働制とフレックスタイム制も異なる制度です。
裁量労働制ではみなし労働時間が適用されますが、フレックスタイム制では労働時間が通常どおり計算され、残業代も支払われます。
また、裁量労働制の労働者には業務上の広い裁量が与えられますが、フレックスタイム制の労働者には始業・終業の時刻を決める裁量が与えられるだけで、業務上の広い裁量を与える必要はありません。
さらに、裁量労働制は適用できる職種が限定されていますが、フレックスタイム制に職種の限定はありません。
2、裁量労働制はやばい制度なのか? デメリットを紹介
裁量労働制は、労働者にとって自由な働き方ができるメリットがある一方で、以下のデメリットも存在します。
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(1)仕事の効率が悪いと労働時間が長くなる
通常の労働者とは異なり、裁量労働制の労働者は残業時間が制限されません。基本的には「仕事が終わるまで働く」ことが想定されています。
仕事の効率が良ければ早く仕事を切り上げられる反面、仕事の効率が悪いと労働時間が長くなりがちであることに注意が必要です。 -
(2)労働時間が増えても、残業代は増えない
裁量労働制の労働者は、どれだけ働いても残業代が増えません(深夜手当を除く)。労働時間が長すぎると、賃金の額が割に合わなくなってしまうことがある点にご注意ください。
3、裁量労働制が違法となるケース
裁量労働制を単に「残業代を支払わなくてよい制度」などと考えて、不適切な運用により労働者を搾取する悪質な企業があるようです。
裁量労働制で働く方が以下のような状況にある場合は、お早めに弁護士へご相談ください。
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(1)労働者に裁量が与えられていない
裁量労働制を適用する場合は、労働者に業務の進め方や時間配分などに関する広い裁量を与える必要があります。
労働者に裁量が与えられていない場合、「裁量労働制」とは名ばかりであるため、みなし労働時間の適用が認められません。 -
(2)対象外職種の労働者に裁量労働制が適用されている
専門業務型裁量労働制は、適用できる職種が20種類に限定されています。
企画業務型裁量労働制については、職種は限定されていないものの、業務の内容は企画・立案・調査・分析のいずれかに関するものである必要があります。
また、労働者に業務上の広い裁量を与える必要がある場合でなければ、各裁量労働制は適用できません。 -
(3)健康福祉確保措置が講じられていない
裁量労働制で働く労働者に対して、使用者は健康福祉確保措置を講じる必要があります。
健康福祉確保措置の内容 事業場の対象労働者全員を対象とする措置 - 勤務間インターバルの確保
- 深夜労働の回数制限
- 労働時間の上限の設定
- 年次有給休暇の連続取得を含めた取得促進
個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置- 医師による面接指導
- 代償休日または特別な休暇の付与
- 健康診断の実施
- 健康問題についての相談窓口の設置
- 適切な部署への配置転換
- 産業医などによる助言、指導
これらの健康福祉確保措置が講じられていない場合は、労働基準法違反となります。
4、未払い残業代の請求方法
不適切な運用によって裁量労働制が無効となる場合は、みなし労働時間が適用されないので、労働時間に応じて残業代が発生します。
未払い残業代が発生している場合は、以下の方法によって使用者に請求しましょう。
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(1)請求に必要な証拠の確保
まずは、未払い残業代請求に必要な証拠を確保しましょう。
具体的には、残業をしたことに関する証拠と、裁量労働制が無効であることに関する証拠が必要です。
残業をしたことに関する証拠としては、タイムカードや勤怠管理システムの記録を確保することが望ましいです。それが難しければ、代替的な証拠を確保する必要があるので、弁護士のアドバイスを受けましょう。
裁量労働制が無効であることに関する証拠としては、働き方の実態が分かる資料を準備する必要があります。弁護士に相談しながら、どのような証拠があるかをよく検討しましょう。 -
(2)未払い残業代の計算
残業時間を集計した上で、未払い残業代を請求します。
残業代に対しては、下表の割増賃金が適用されます。弁護士に依頼して、適正額の残業代を計算した上で請求しましょう。時間外労働(=法定労働時間を超える労働) 通常の賃金の25%以上
※月60時間を超える部分については、通常の賃金の50%以上休日労働(=法定休日の労働) 通常の賃金の35%以上 深夜労働(=午後10時から午前5時までの労働) 通常の賃金の25%以上 -
(3)労働基準監督署への申告
労働基準監督署に対して労働基準法違反の事実を申告すると、会社に対して是正勧告が行われた結果、会社が未払い残業代の支払いに応じることがあります。
ただし、労働基準監督署はあくまでも行政官庁であり、労働者の代理人ではありません。労働者に代わって労働基準監督署が残業代を請求してくれることはなく、また申告しても動いてもらえないケースもある点に注意が必要です。 -
(4)会社との交渉
未払い残業代請求を行う際には、まず会社との交渉を試みるケースが多いです。会社が支払いに応じれば、早期に未払い残業代を回収できます。
裁量労働制の不適切な運用や、残業をしたことに関する証拠を提示して、速やかに残業代を支払うよう求めましょう。 -
(5)労働審判
会社との交渉がまとまらないときは、裁判所に労働審判を申し立てることを検討しましょう。
労働審判は、労使紛争を迅速に解決するための手続きです。裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、調停や労働審判によって紛争解決を図ります。
労働審判の審理は原則として3回以内で終結するので、訴訟よりも迅速な解決が期待できます。 -
(6)訴訟
労働審判に対して異議が申し立てられた場合は、自動的に訴訟へ移行します。また、労働審判を経ずに訴訟を提起することも可能です。
未払い残業代請求訴訟では、労働者は裁判所の法廷において、未払い残業代が発生している事実を主張・立証します。労働者側の主張が認められると、裁判所は会社に対して未払い残業代の支払いを命ずる判決を言い渡します。
きちんと証拠をそろえた上で、法的な根拠に基づいて主張・立証を行うことが、未払い残業代請求訴訟で勝訴するためのポイントです。
5、まとめ
裁量労働制を不適切な形で運用し、労働者を搾取する企業がしばしば見られます。裁量労働制が無効であれば、未払い残業代が発生している可能性が高いので、速やかに弁護士へ相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、未払い残業代請求に関する労働者のご相談を随時受け付けております。裁量労働制の名目で長時間労働を強いられ、会社から搾取されていると感じている方は、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスへご相談ください。
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