交通事故加害者からの謝罪は慰謝料に影響? 被害者の対処法と心構え
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長崎県警察が公表している交通事故の統計資料によると、令和6年に長崎県内で発生した交通事故の発生件数は、2416件でした。
事故の被害に遭った場合、加害者から謝罪を受けることがありますが、この謝罪が慰謝料の金額に影響するのか気になる方もいるでしょう。また、被害者としてどのように対応すればよいのか、謝罪を受けたことで示談を急いでしまうリスクはないのか、冷静な判断が求められます。
本コラムでは、加害者の謝罪が慰謝料に与える影響や、被害者がとるべき対応について、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士がわかりやすく解説します。


1、加害者から謝罪がない! 誠意ある謝罪を受ける方法は?
交通事故の被害に遭い、ケガや精神的なショックを受けたにもかかわらず、加害者から一切謝罪がないと、「なぜ?」という怒りや悲しみがこみ上げるものです。
加害者に謝罪を求めることはできるのか、謝罪にはどのような意味があるのか、そして誠意のある謝罪を受けるためにどうすればいいのか。適切な対処法を解説いたします。
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(1)加害者が謝罪しない理由
交通事故の加害者が謝罪に来ない理由はいくつか考えられます。被害者としては、謝罪がないことで「誠意がない」と感じることもありますが、加害者側にはそれぞれの事情があるようです。
① 保険会社から連絡を控えるよう指示されている
加害者が謝罪に来ない理由のひとつとして、加入している保険会社から「被害者と直接やりとりしないように」と指示されていることが挙げられます。保険会社としては、加害者が不用意な発言をしてトラブルを招いたり、勝手に賠償を約束したりすることを避けるため、直接の接触を控えさせるケースが多いのです。
② 自分に非があるとは思っていない
加害者が「自分はそこまで悪くない」と考えているケースもあります。過失割合が被害者側にもある場合、加害者は「どっちもどっち」と考えてしまい、謝罪の必要性を感じないことがあります。
特に、加害者自身が事故の責任についてしっかり理解できていない場合や、保険会社・弁護士から説明を受けていない場合には、「自分も被害者だ」と思い込んでしまうこともあります。その結果、「なぜ自分が謝らなければならないのか」と考え、謝罪をしないままとなるケースがあるのです。
③ 謝罪すると責任が重くなると考えている
「謝罪すると、責任を認めたことになり、賠償額が増えるのではないか」と誤解している加害者もいます。しかし、実際には謝罪の有無で過失割合や損害賠償額が変わることはありません。過失割合は、事故の状況や証拠に基づいて決まるため、謝罪したことで責任が増すことはないのです。
それでも、加害者の中には「謝罪することで被害者からより多くの請求をされるのでは」と心配し、謝罪を避ける人もいます。結果として、被害者が「誠意がない」と感じ、示談交渉が難航するケースも少なくありません。
④ 謝罪のタイミングを逃してしまった
謝罪をしないまま時間がたってしまい、「いまさら謝罪に行っても逆効果では」と考え、行動をためらっているケースもあります。「謝罪したいが、いつどのようにすればいいかわからない」「被害者に怒鳴られるのが怖い」と考えているうちに時間が過ぎ、結局謝罪しないままとなることもあります。
また、仕事や日常の忙しさに追われ、「謝罪しなければ」と思いつつも先延ばしにしてしまうケースもあります。時間がたてばたつほど、加害者としても「いまさら行くのは気まずい」と感じ、謝罪ができなくなってしまうのです。 -
(2)謝罪を求めることはできるか
交通事故の被害者として、加害者に謝罪を求めたいというのは当然の気持ちです。しかし、法律上、謝罪を強制することはできず、加害者が謝るかどうかは本人の意思次第となります。
謝罪を求めること自体は問題ありませんが、強く要求しすぎると、加害者側が、弁護士を立てる等して対応が硬直化することもあります。そうなると、示談交渉が進みにくくなり、結果的に被害者にとって不利になる可能性もあります。
被害者としては、謝罪がないことにこだわるよりも、適正な損害賠償を受けることを優先し、自分の生活を立て直すことに意識を向けることが大切です。もし謝罪を受けたい場合は、保険会社を通じて希望を伝えるなど、冷静な対応を心がけるとよいでしょう。 -
(3)謝罪の法律上の効果
法律上、加害者が謝罪をしたからといって、慰謝料や賠償額が大きく変わるわけではありません。しかし、示談交渉の場において、加害者が誠意ある態度を見せることで、話し合いがスムーズに進むことはあります。
示談交渉とは、被害者と加害者が損害賠償の金額や条件について合意し、今後の請求をしないことを約束する手続きです。被害者が納得できる条件で合意すれば、示談が成立し、加害者が適切な賠償を行うことになります。
示談が成立すると、加害者に対する刑事処分が軽減される可能性があります。これは、示談を通じて被害者が加害者を許し、処罰を望まないという意思を示した場合、検察が起訴を見送ることがあるためです。また、起訴されたとしても、執行猶予がつく、刑が軽減されるなどの影響をありえます。
ただし、これらはあくまで被害者が納得した場合に限られます。加害者が単に刑罰を軽くするために示談を求めたとしても、被害者が誠意を感じられなければ、示談が成立しないこともあります。 -
(4)謝罪を求める方法
謝罪を求める場合は、直接加害者に連絡するのではなく、まずは保険会社を通じて「加害者本人からの謝罪を希望している」と伝えるのがスムーズです。保険会社が加害者に助言し、謝罪につながるケースもあります。
また、加害者から謝罪の申し出があった場合は、感情的にならず冷静に対応することが大切です。怒りや悲しみを抱えるのは当然ですが、加害者が本当に反省しているのかを見極めることも重要です。
さらに、謝罪を求める際には、示談交渉とは切り離して考えることが大切です。謝罪と慰謝料を結びつけてしまうと、加害者が「お金目的なのか」と疑いを持つ可能性があり、誠意のある謝罪を受けにくくなることもあります。そのため、「まずは謝罪を受けたうえで示談の話を進める」という姿勢で臨むとよいでしょう。
謝罪がないと、被害者としては納得がいかないことも多いですが、相手に期待しすぎないことも大切です。もし加害者が全く謝罪しない場合でも、法律に基づいた適切な賠償を求めることができます。謝罪を強く求めるよりも、示談交渉をしっかり進め、適正な賠償を受けることを優先するのが現実的な対応といえます。
2、事故後加害者から謝罪を受ける際の影響と対処法
交通事故の後、加害者から謝罪を受けると、被害者としては複雑な感情を抱くことがあります。以下に、謝罪を受ける際の影響と対処法について説明します。
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(1)謝罪の意は素直に受け取る
加害者が謝罪の意を示すことは、被害者の心の整理に役立つことがあります。謝罪を受け入れることで、感情的なわだかまりが軽減され、今後の手続きをスムーズに進められる可能性があります。ただし、謝罪を受け入れるかどうかは被害者の自由であり、無理に受け入れる必要はありません。
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(2)金銭的な話が出てもその場で応じない
謝罪の場で、加害者から金銭的な提案があるかもしれません。しかし、その場で具体的な金額や条件に同意するのは避けるべきです。交通事故の損害賠償は、適切な手続きを経て慎重に決めるべきであり、謝罪の場での即決は後々問題を生じる可能性があります。示談交渉は、保険会社や専門家を交えて進めることが重要です。
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(3)可能であれば当事者のみで会うことは避ける
加害者と被害者が直接会う際、感情的な衝突や誤解が生じるリスクがあります。可能であれば、第三者(たとえば、保険会社の担当者や弁護士)に同席してもらうことで、冷静かつ公正な話し合いが期待できます。これにより、双方の意見を客観的に整理し、適切な解決策を見つけやすくなります。
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3、謝罪がないことを理由とした慰謝料増額はできる?
加害者から謝罪がないと、被害者としては「誠意がない」と感じ、納得できない気持ちになるのは当然です。しかし、法律上は謝罪の有無だけを理由に慰謝料を増額するのは難しいとされています。慰謝料は、事故の態様や被害の程度、加害者の対応などを総合的に判断して決められるため、謝罪がないこと自体は直接の増額理由にはなりません。
ただし、無免許運転やひき逃げ、虚偽の供述など加害者の行動が特に悪質な場合には、謝罪しないことも一因として考慮され、慰謝料が増額される可能性があります。被害者としては、「謝罪がないこと」を主張するよりも、加害者の不誠実な対応全体を踏まえたうえで、適正な賠償を求める方が現実的です。
また、加害者が謝罪しないからといって、何の影響もないわけではありません。刑事処分の判断では、謝罪や示談の有無が重要な要素となるため、謝罪も示談もない場合は、加害者が厳しい刑事処分を受ける可能性があります。
被害者としては、謝罪がないことに強くこだわるよりも、適正な慰謝料を確実に受け取ることを優先するのが重要です。示談交渉や法的手続きについて不安がある場合は、弁護士に相談し、適切な対応を進めましょう。
4、適切に損害賠償を受けるために被害者がすべきこと
交通事故の被害を受けたとき、加害者に罰を与えたいと考えるのは当然の感情です。謝罪もなく、誠意の感じられない対応をされた場合、なおさら許せない気持ちになるでしょう。
しかし、大切なのは、被害を受けた自分自身が前を向いて進めるようになることです。そのためには、適正な損害賠償を受けることが重要になります。賠償金をしっかりと受け取ることで、治療やリハビリに専念し、仕事や生活の立て直しを図ることができるのです。
適切な賠償を受けるためには、まず通院を継続し、必要な治療を受けることが大切です。診断書を取得し、治療の経過を記録しておくことで、適正な損害額を請求しやすくなります。
また、示談交渉の際には、実際の損害額を正確に計算し、低額で合意しないよう注意が必要です。加害者側の保険会社は、できるだけ賠償額を抑えようとすることが多いため、交渉に不安がある場合は弁護士に相談するのも有効です。
5、まとめ
事故の辛い経験は簡単に忘れられるものではありません。しかし、加害者への怒りを抱え続けることよりも、自分自身がよりよい未来へ進めるよう、前向きに考えることが大切です。
加害者の態度や相手側の保険会社の提示する賠償に納得がいかない場合、弁護士が介入することでスムーズな解決につながることは少なくありません。交通事故の問題に区切りをつけ、新たな一歩を踏み出すために、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が尽力いたします。
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