膝の靱帯損傷をした場合の後遺障害等級は? 申請方法や認定のポイント
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令和3年12月、90代男性が運転していた軽乗用車が長崎自動車道上り線を逆走して、佐賀方面に向かっていた乗用車と正面衝突し、同男性が死亡する事故が起きました。その他にも、死亡事故とまでは至らずとも、長崎県内では多数の交通事故が起こっています。
靭帯(じんたい)損傷とは、スポーツ選手のケガに関する報道でよく聞かれる言葉のひとつですが、交通事故によるケガでも発生する可能性のある症状です。膝は人間が歩行を行ううえで重要な役割を果たす部位であるために、膝にケガを負うことは、日常生活や仕事にも大きな影響を与えます。
本コラムでは、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が、交通事故で靭帯を損傷した場合の治療経過や、靭帯損傷によって起こる可能性のある後遺障害、後遺障害等級を認定する際の注意点などについて解説します。
1、靭帯損傷について
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(1)膝の靭帯の機能と役割
人間の足は、大まかにいうと、膝から上の太もも部分と、膝から下のすねの部分、そして足首から下の部分の三つの組織で構成されています。
「膝の靭帯」とは、太もも部分にあたる大腿(だいたい)骨と、膝下のすねの骨(脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ))をつなぐ軟部組織のことを指します。膝靭帯の主な役割は、骨と骨とをつなぎ、膝を安定させ、動きを制御することです。
膝には四つの靭帯があり、それぞれに異なる役割があります。その四つの靭帯が十分に機能することで、安定した歩行や運動が可能になるのです。
四種類の靭帯は、それぞれ、具体的には下記のような名称と機能を持っています。① 前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい:ACL)
主として膝の前方向への安定性を保つ役割
② 後十字靭帯(こうじゅうじじんたい:PCL)
主として膝の後方向への安定性を保つ役割
③ 内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい:MCL)
主に膝の内側の安定性を保つ
④ 外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい:LCL)
主に膝の外側の安定性を保つ -
(2)靭帯損傷のきっかけと症状
靭帯損傷の一例としては、膝に外的な力が加わることで、靭帯が強く引っ張られたり、ひねりが加えられることで、靭帯に断裂が生じることがあります。また、転倒や交通事故などで膝を強打することにより、靭帯が損傷することもあります。
靭帯損傷が起こる際には、損傷の瞬間に、「プツッ」という断裂音が聞こえることがあります。
膝の靭帯損傷によって生じる症状には、以下のようなものがあります。
- 膝関節の曲げ伸ばしが十分にできない(可動域制限)
- 膝関節がガクガクして不安定になる、膝が通常の可動域を超えて曲がる(動揺関節)
- 膝の痛み
- 膝関節部分の炎症、腫れ
上記のような症状が生じているのに我慢していると、損傷が進行して、生活への支障が大きくなるおそれがあります。膝靭帯損傷の診断は、画像診断、特に MRIによる検査が有効です。レントゲンよりも MRIのほうが靭帯の状態を確実にとらえることができるためです。交通事故で膝を強打したりひねったりした場合は、早めに整形外科に受診して、 MRI検査を受けるようにしましょう。
2、靭帯損傷の主な治療方法
靭帯損傷は、時間の経過による自然治癒を期待できないケガのひとつとされています。つまり、自分の判断で放置することは禁物であり、治療を受けることが必須といえます。
治療の方法としては、手術と保存的治療の二つの選択肢があります。どちらの治療を選択するかは、損傷の部位、程度、年齢やケガをした人自身の希望をふまえて決定することになります。
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(1)膝の靭帯損傷の手術とは
靭帯の損傷の程度が重い場合や、患者が手術による治療を積極的に希望する場合には、手術が検討されます。また、プロのスポーツ選手なども、早期に完治を目指すために手術を選択することが多いようです。
部位別にみると、前十字靭帯の損傷では手術が選択されることが多くなっています。前十字靭帯の損傷は、そのまま放置しておくと膝のその他の部位の損傷も引き起こしかねないためです。他方、後十字靭帯や内側の靭帯損傷では、保存的治療が中心となります。
手術の方法は、断裂した靭帯を縫合する靭帯修復術と、靭帯を別の組織でつなぎ直す靭帯再建術との二種類に分かれます。どちらの方法も、内視鏡を用いて行われます。また、靭帯再建術には、自分の身体の他の腱組織(ハムストリングス腱(けん)や膝蓋腱(しつがいけん))を移植して用いる方法と、人口靭帯を用いる方法があります。
靭帯損傷の手術には入院が必要であり、手術直後は松葉づえが不可欠となります。入院中から早期に歩行訓練やリハビリテーションを開始することで、その分、日常生活への復帰を早めることができます。 -
(2)保存的治療とは
保存的治療とは、手術を行わない治療方法のことです。
具体的な方法としては、ギプスや膝関節の動揺を防ぐ装具の装着、そしてリハビリテーションによる可動域訓練や筋力トレーニングなどがあります。
3、靭帯損傷の後遺障害等級
靭帯の損傷は重大なケガであるため、医療機関で治療を継続しても、完全には治らないことがあります。
「これ以上治療を行っても、症状が改善しない」とことを「症状固定」といいます。そして、症状固定の後にもまだ残っている症状について一定の条件を満たす場合、「後遺障害」にあたります。
交通事故が原因の靭帯損傷で後遺症が残った場合には、損害保険料率算出機構という機関に書類を提出することで、「後遺障害等級の認定」を受けることができます。そして、後遺障害慰謝料や逸失利益など、後遺障害に関する損害賠償を加害者に請求するためには、後遺障害等級が認定されることが必要とされるのです。
以下では、靭帯損傷の場合に認定される可能性がある後遺障害等級について、症状ごとに説明します。
① 可動域制限
靭帯の損傷により、膝の曲げ伸ばしが十分にできなくなった場合は、その程度によって、10級または12級が認定されます。
- ケガをしていない側の膝と比較し、膝の可動範囲が1/2以下となった場合:10級
- ケガをしていない側の膝と比較し、膝の可動範囲が3/4以下となった場合:12級
② 動揺関節
靭帯には大腿骨と脛骨をつなぎ、関節を安定させる働きがあります。したがって、靭帯を損すると、関節の安定性が失われて、膝がぐらぐらすることがあります。また、膝を固定させる機能が低下することで、通常の可動域以上に膝が大きく曲がったり、膝が異常な方向に動いたりするなどの特異な症状が出ることもあります。
このような症状は、まとめて「動揺関節」といいます。動揺関節は歩行に支障を生じさせるため、補装具の装着が必要となる場合があります。
補装具の装着が必要になった場合は、以下の基準で、後遺障害等級が認定されます。
- 常に硬性補装具が必要な場合:8級
- 時々硬性補装具が必要な場合:10級
- 重激な労働等の際以外には硬性補装具が必要としない場合:12級
③ 神経症状
後遺障害等級の認定基準においては、膝の痛みは「神経症状」として分類されます。
痛みは感覚であるため、ある人が感じている痛みを他人は知覚することができません。後遺障害等級の認定の過程においては、被害者の自覚症状、診断書、画像診断の結果などをふまえて、神経症状としての後遺障害に該当するかどうかが判断されます。後遺障害に該当する場合、画像診断などの他覚所見があるか否かを基準として、12級あるいは14級が認定されます。
- 痛みについて他覚所見がある場合:12級
- 痛みについて他覚所見がない場合:14級
4、靭帯損傷の後遺障害等級が認定されるには?
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(1)後遺障害等級申請の二つの方法
後遺障害等級の認定を受けるためには、損害保険料率算出機構に必要な書類を提出して、申請を行う必要があります。
また、申請の方法には、「事前認定」と「被害者請求」の二種類があります。
① 事前認定
事前認定とは、加害者側の保険会社を通じて申請を行う方法です。
事前認定では、被害者側は主治医から後遺障害診断書を交付してもらうだけでよく、そのほかの手続きはすべて加害者側の保険会社担当者により、進められていきます。そのため、被害者側にとって時間や手間などの負担がかかりません。
ただし、事前認定では書類の提出を保険会社に任せることになるため、実際にどんな書類が自賠責に提出されたかを被害者側が確認することはできません。
② 被害者請求
被害者請求とは、被害者自身で自賠責に書類を提出して、等級の認定を申請する方法です。必要書類を集めて記入するという手間がかかる一方、提出する書類の内容を被害者自身で決めることができます。 -
(2)事前認定・被害者請求のどちらがよいか
適切な後遺障害等級の認定を受けるためには、被害者請求により申請することをおすすめします。
後遺障害の等級は、請求できる損害賠償の金額に大きく影響します。いくら症状が重くても、後遺障害等級として認定されなければ、症状に見合った適切な賠償を受けることはできません。等級の数字の違いによっても、数百万円以上の差が生じる可能性があります。
自賠責における等級審査では被害者との面談はなく、すべて書類だけで行われます。したがって、どのような書類を提出するか、被害者自身でじっくりと吟味したうえで、必要な書類を過不足なく提出することが重要となるのです。しかし、賠償金を支払う側である保険会社には、被害者にとって有利な資料や証拠を探し出して手続きを進めるメリットがありません。つまり、事前認定では、被害者の利益が十全に考慮されることが期待できないのです。したがって、後遺障害等級の申請は、被害者請求によって行うことが望ましいといえます。
なお、申請後の後遺障害認定結果に納得がいかない場合には、異議申し立てをすることも可能です。 -
(3)靭帯損傷と後遺障害認定のポイント
靭帯損傷が後遺障害として認められるためには、次の点が重要なポイントです。
① MRI画像で靭帯損傷を立証すること
MRIのほうがレントゲンに比べ、靭帯の状態をより正確にとらえられるため、「靭帯が損傷している」という事実を立証するためには、 MRI画像が最適です。 MRIは撮影機器によって精度が異なります。できれば高精度の MRIで撮影して、靭帯の損傷の程度を詳細に確認できる画像を取得することが望ましいでしょう。
② 関節の動揺をストレスレントゲンによって立証すること
関節がぐらついたり、異常な角度で曲がったりするという「動揺関節」の症状を主張するならば、「ストレスレントゲン」の診断結果を添付することが有効です。
ストレスレントゲンとは、膝にストレス(圧迫など)をかけた状態でレントゲン撮影をする検査方法です。素手または器具で膝に圧力をかけ、靭帯の損傷によって生じる骨のズレを撮影することになります。
5、交通事故で靭帯損傷したら、弁護士に依頼すべき?
靭帯損傷は、日常生活にも仕事にも大きな支障をもたらす、重大なケガです。
膝の痛みだけでなく、可動域制限、そして動揺関節といった靭帯損傷に特有の症状がある場合、後遺障害等級として認定を受けるためには、特殊な画像診断などを受けて、提出書類を吟味する必要があります。
後遺障害等級の認定に関する経験が豊富な弁護士に相談することで、後遺障害等級の認定に関するサポートを受けることができます。後遺障害等級が認定されるか否か、また認定される等級の数字は、請求できる後遺障害慰謝料や逸失利益などの金額を大幅に左右します。事故により靭帯損傷を負われた方は、できるだけ早い段階から、弁護士に相談することをおすすめします。
6、まとめ
本コラムでは、交通事故による靭帯損傷について、弁護士が詳しく解説しました。
膝の靭帯は人間が歩行を行ううえで重要な役割を果たす組織ですが、治療をしても完治しないケースもあります。そのような場合には、後遺障害認定を受けて、適切な賠償を受けることが大切です。
ベリーベスト法律事務所では交通事故の専門チームを設置しており、後遺障害等級の認定の申請や異議申し立てに関する経験が豊富な弁護士が多数在籍しています。長崎オフィスでも、専門チームと連携しながら、後遺障害等級の認定に関する相談を承っています。
早い段階から事故の状況や症状を詳しくうかがうことで、より具体的で実践的なアドバイスが可能になります。ぜひ、お早めにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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