自筆証書遺言と公正証書遺言の違いを比較|どちらが適している?
- 遺言
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 違い
裁判所が公表する令和2年度の司法統計によると、長崎家庭裁判所では1年間に134件の遺産分割事件が取り扱われています。
相続では、遺産の分配をめぐってトラブルに発展することも少なくありません。自身亡き後に、家族や大切な人が争うことは避けるためには、適切な遺言書を作成しておくことが大切です。
一般的に、遺言書は「自筆証書遺言」または「公正証書遺言」の形式で作成されることが多いですが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。本コラムでは、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いについて、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。
1、遺言書の種類
遺言書は、本コラムで解説する、自筆証書遺言と公正証書遺言以外の作成方法もあります。
まずは、船舶遭難などの特別な事情で死期が迫った方が対象になる「特別方式」と、一般的な「普通方式」の二種類に分けられます。特別方式は、特殊な状況下でのみ作成が認められる遺言書のため、通常は普通方式で作成されます。
普通方式の場合、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」のいずれかを選択することになります。
「秘密証書遺言」は、遺言者自身が作成して封をした遺言書について、公証人に遺言の存在のみを証明してもらう形式の遺言です。しかし、実務的にはあまり利用されておらず、自筆証書遺言または公正証書遺言の方式で遺言書を作成するのが一般的です。
2、公正証書とは?
遺言書と聞くと、自筆で書かれた自筆証書遺言をイメージする方が多いかもしれません。
一方、公正証書遺言は、公正証書がどのようなものなのかが分からなければ、イメージしにくいのではないでしょうか。
公正証書とは、中立で公平な立場にある公証人によって作成される公文書です。遺言に限らず、離婚や任意後見などの場面でも作成されます。
裁判などで争いになった場合、公正証書に記載された内容は、当事者の意思を示す強力な証拠になります。また、金銭債務に関する公正証書を作成するときは、強制執行を認諾する文言が入れることで、強制執行を速やかに申し立てることができるという効力も持ちます。
公正証書を作成するためには、基本的に公証役場に行って、当事者が公証人に公正証書に記載してもらう内容を伝える必要があります。無事に公正証書が作成されると、原本は公正役場に保管され、当事者には正本や謄本が交付されます。
3、自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
それでは、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いについて、次の表を参照しつつ具体的に見ていきましょう。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
---|---|---|
作成方法 | 遺言者が自筆で作成 | 公証人が作成 |
証人の有無 | 必要無し | 証人2名の立ち会いが必要 |
費用 | 基本的に無料 | 手数料が発生する |
保管場所 | 遺言者が決めた場所 または法務局 |
原本は公証役場 正本等は遺言者が保管 |
検認の有無 | 必要(法務局で保管の場合を除く) | 不要 |
無効になるリスク | 高い | 低い |
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(1)作成方法・証人・費用
自筆証書遺言と公正証書遺言では、作成方法や証人の有無について、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
● 自筆証書遺言
自筆証書遺言は、基本的に遺言者本人が全文・日付・氏名を自筆で書いて押印することで、作成します。
代筆によるものや全文をPCで作成したものは、遺言としての法律的な効力を持ちません。ただし、財産目録については、別紙として添付する場合、署名・押印があれば自筆でなく代筆・PCによる作成が認められています。
自筆証書遺言を作成するにあたっては、証人は必要とされず、作成する費用も基本的にかかりません。
● 公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者本人が遺言の内容を口頭で公証人に伝え、公証人がその内容を文章にまとめます。公正証書を作成する際には、証人として2名以上の立ち会いが必要です。
公正証書遺言を作成するためには、公証人に手数料を支払う必要があります。手数料は、公証人手数料令という政令で規定されており、相続財産の金額に応じて定められているので、あらかじめ公証役場などに確認しておくとよいでしょう。 -
(2)保管場所
自筆証書遺言と公正証書遺言では保管場所が違いますが、自筆証書遺言を法務局で保管できる制度(自筆証書遺言保管制度)が創設されたことは注目すべき点です。
● 自筆証書遺言
自筆証書遺言の保管場所は、遺言者本人で決めることができます。自宅に保管しておいたり、信頼できる第三者に保管してもらったりと、自由に決めることができます。
しかし、自由に決められるがゆえに、保管場所を忘れてしまったり、相続人が遺言書を発見できなかったりというリスクもあります。また、遺言書の書き換えや偽造されるリスクもあるでしょう。
なお、令和2年7月からは、改正相続法の施行によって自筆証書遺言保管制度が利用できるようになりました。
自筆証書遺言保管制度を利用すると、遺言書の原本を法務局で管理してもらうことができます。改ざんや紛失のおそれがないことにくわえ、あらかじめ希望すれば、死亡時に遺言があることを1名に通知することも可能です。
● 公正証書遺言
公正証書遺言の原本は、公証役場に保管されます。そのため遺言書の紛失・変造・偽造などのリスクは、ほぼないといえます。
遺言者には遺言書の正本が交付されますが、保管場所を忘れたり紛失したりしても、原本が公証役場で保管されているため問題は生じないでしょう。 -
(3)検認の有無
検認は、家庭裁判所が遺言書の存在と内容を明確にする手続きです。
検認が必要なケースにもかかわらず、検認を経ずに遺言書を勝手に開封したり、遺言を執行したりした場合は、5万円以下の過料に処される可能性があります(民法 第1005条)。
● 自筆証書遺言
自筆証書遺言は、原則として家庭裁判所の検認手続きが必要になります。
自筆証書遺言を発見した相続人や遺言の保管者は、相続開始後、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に遺言書の検認を請求しなければなりません。ただし例外として、前述した自筆証書遺言保管制度を利用して、法務局で保管していた遺言書については、検認手続きは不要です。
なお、検認はあくまでも、遺言書の偽造や変造を防止することが目的であり、遺言書の有効・無効を判断する手続きではありません。万が一、検認を経ずに開封等をしてしまったとしても、遺言自体が無効になるわけではありません。
● 公正証書遺言
公正証書遺言の場合、検認手続きは不要です。 -
(4)遺言書が無効になるリスク
自筆証書遺言と公正証書遺言を比較すると、自筆証書遺言のほうが無効になるリスクは高いといえます。
● 自筆証書遺言
自筆証書遺言は、簡単に作成できる反面、厳格な方式に従って作成することが要求されます。たとえば日付の記載や押印が漏れている、特定できない日付が記載されているなど、形式面での不備があれば、せっかく作成した遺言書は無効になってしまいます。
また、遺言者が認知症であったなど、遺言書作成時の意思能力が問題になったときに、自筆証書遺言は無効と判断される可能性が高くなりやすいと考えられます。
● 公正証書遺言
公正証書遺言は公証人が作成するので、形式面の不備は生じにくく、自筆証書遺言と比べて無効になるリスクは低いといえます。
遺言作成時の意思能力が争われた場合ですが、基本的には遺言書の種類にかかわらず個別の事案ごとに検討されることになります。
しかし、公正証書遺言については公証人という公正・中立な立場の第三者と証人2名が作成にかかわっているという点で、意思能力があったと証明できる可能性が自筆証書遺言よりは高いと考えられます。
4、まとめ
本コラムでは、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いについて解説しました。
自筆証書遺言と公正証書遺言は、作成方法や保管場所、検認の有無など、さまざまな点で違いがあります。遺言書を作成する場合には、両者の違いをふまえたうえで、ご自身のケースに合わせて選択することが大切です。
もっとも、遺言書の作成は方式だけでなく、遺留分などの遺言内容で注意すべき点もあります。またケースによっては、遺言執行者を選任した方がよい場合などもあるでしょう。
そのため、遺言書の作成を検討されている場合は、弁護士に相談することがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスでは、遺言書作成をはじめとした相続全般についてのご相談をお受けしております。個々のご状況に適した、最善の対応策をアドバイスします。ぜひ、お気軽にご相談ください。
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