出張中にケガをしてしまったとき、労災は認定されるか?
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令和3年、長崎県内では1791件の労働災害が発生しました。
出張中にケガをした場合、労災保険給付を受給できる可能性があります。労災認定の要件と労災保険給付の種類を正しく理解して、受給可能な労災保険給付を漏れなく請求するようにしましょう。
本コラムでは、出張中にケガをした場合における労災認定の可否や、受給できる主な労災保険給付の種類について、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。
1、労災(労働災害)とは?
労災(労働災害)とは、労働者が業務上または通勤中にケガをしたり病気にかかったりすること、それによって障害を負ったり死亡したりすることを指します。
労災の被害に遭った労働者(被災労働者・被災者)は、労働保険の一つである労災保険に基づき、給付金を請求することができます。
労災保険給付は、必ずしも被災労働者に生じた損害全額を補塡(ほてん)するものではありませんが、被災労働者やその家族に対して一定の生活保障を提供します。
労災には「業務災害」と「通勤災害」の2種類があります。
以下では、それぞれの認定要件を解説します。
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(1)業務災害の要件
業務災害は、業務上の原因によりケガをしたり病気にかかったりした労働者について認定されます。
具体的には、「業務遂行性」と「業務起因性」が、業務災害の認定要件となります。① 業務遂行性:
労働者のケガ・病気・障害・死亡が、使用者(会社)の支配下にある状態で発生したこと
② 業務起因性:
労働者のケガ・病気・障害・死亡と、会社の業務の間に相当因果関係があること
基本的には、勤務時間中(休憩時間を除く)に行っていた業務に関連してケガをした場合などには、業務遂行性の業務起因性の両方が認められるでしょう。
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(2)通勤災害の要件
通勤災害は、通勤中にケガや障害を負った労働者について認定されます。
通勤災害が認定されるためには、以下の要件をすべて満たさなければなりません。① 以下のいずれかの移動に該当すること- 住居と就業場所の間の往復
- 就業場所から他の就業場所への移動
- 単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動
② 移動が以下の時期に行われたこと- (a)「住居と就業場所の間の往復」または「就業場所から他の就業場所への移動」の場合
就業(予定)日の当日 - (b)「単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動」の場合
就業(予定日)の前日・当日・翌日
③ 合理的な経路・方法による移動であること
④ 移動が業務の性質を有しないこと
①②③の要件は、通勤災害の認定を、業務と密接な関連のある移動に絞るために設けられています。
④の要件は、業務災害に該当するものを通勤災害から除外するために設けられておるものです。
2、出張中に事故……労災認定される?
出張中に事故に遭ってケガをした場合、業務災害が認定される可能性があります。
また、移動中の事故であっても、出張に関する移動であれば通勤災害ではなく業務災害の対象となります。
ただし、一部のケースについては業務災害の対象外となる点に注意してください。
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(1)出張中の事故は業務災害の対象
出張中に事故に遭ってケガをした場合、移動中であるか否かを問わず、業務災害による労災保険給付の対象となります。
出張については、通常の勤務場所を離れてから戻るまでの一連の過程全般について、事業主の支配下にあると解されています。
そのため、移動中であっても通勤災害ではなく、業務災害の認定対象となるのです。 -
(2)出張中の事故が労災認定されないケース
業務災害の要件である業務遂行性または業務起因性が失われた場合、通勤中の事故であっても労災認定されないので注意してください。
たとえば、以下のような場合では、通勤中の事故について労災認定がされない可能性が高いでしょう。- 出張先で酒を飲みすぎて泥酔した結果、転倒してケガをした場合
- 宿泊先のホテルから外出後、相当な時間が経過してから事故に遭ってケガをした場合
- 使用者から宿泊先のホテルを指定されているにもかかわらず、他の場所に宿泊している最中に事故に遭ってケガをした場合
ただし、上記に挙げるように積極的な私用であったり私的な行為などでなければ、出張に通常伴う行為として、業務遂行性・業務起因性を否定する要素にはならないでしょう。
たとえば、宿泊先のホテル内の浴室で転倒してケガをした場合や、ホテルの食事が当たって食中毒になった場合などには、業務遂行性が否定されず、労災保険給付を受給できる可能性が高いといえます。
なお、海外出張の場合も労災保険給付を受けられますが、「海外派遣」と判断された場合には、特別加入者でなければ労災保険給付を受給できない点にご注意ください。<海外出張と海外派遣の違い>- 海外出張……国内の事業場の指揮命令に従って業務に従事している場合
- 海外派遣……海外の事業場に所属して、その事業場の指揮命令に従って業務に従事している場合
3、労災保険給付の請求方法
通勤中のケガが業務災害に該当する場合、労災保険給付を受給できます。
労災保険給付には、以下のような種類があります。
ケガなどの治療を無償で提供し、または被災労働者が支出した治療費などを補塡する給付。
② 休業(補償)給付:
ケガなどの治療のため、仕事を休んだ期間の収入を補塡する給付。
③ 遺族(補償)給付:
死亡した被災労働者の遺族に対して、生活保障の目的で行われる給付。
④ 葬祭料(葬祭給付):
死亡した被災労働者の葬儀費用に充てる目的で行われる給付。
⑤ 傷病(補償)給付:
傷病等級3級以上に相当するケガなどが、1年6カ月以上治らない被災労働者に対して行われる給付。
⑥ 障害(補償)給付:
労災によって後遺症が残った被災労働者に対して行われる給付。
⑦ 介護(補償)給付:
障害の状態に応じ、常時介護もしくは随時介護を要する状態の被災労働者に行われる給付。
このうち、特に多くの被災労働者が受給できる給付が療養給付と休業給付となります。
以下では、療養給付と休業給付のそれぞれを請求する方法について解説します。
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(1)療養(補償)給付の請求方法
労災病院や労災保険指定医療機関・薬局等(指定医療機関等)では、労災によるケガの治療や薬剤の支給を無料で受けられます。
この場合、所定の請求書を作成したうえで、指定医療機関等の窓口に提出すれば手続きが完了します。
請求書の様式は、指定医療機関等の窓口で交付を受けられます。
これに対して、指定医療機関等以外の医療機関や薬局などでケガの治療や薬剤の支給を受ける場合、被災労働者が費用を立て替える必要があります。
その後に、被災労働者が事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に所定の請求書と領収書などを提出することで、立て替えた実費の償還を受けることができます。
なお、通院費についても、合理的な範囲内で療養給付の対象となります。
受診先が指定医療機関等であるか否かにかかわらず、労働基準監督署長に所定の請求書を提出して、通院費に関する給付も忘れずに受給しておきましょう。 -
(2)休業(補償)給付の請求方法
休業給付からは、休業4日目以降から平均賃金の8割に相当する金額を受給できます。
休業給付の請求は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に対して、所定の請求書を提出することで行います。
請求書には「診療担当者の証明」(ケガなどが労災に起因することに関する、医師などによる証明)を記載する必要がありますので、主治医に記入を依頼しましょう。
4、労災により後遺症が残ってしまったら?
出張中に事故に遭い、ケガが完治せずに障害が残ってしまった場合には、労災保険給付の一つである「障害給付」を受給できます。
障害給付は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に対して、所定の請求書や医師の診断書などを提出することで請求できます。
なお、障害給付の受給額は、労働基準監督署が認定する障害等級に応じて大きく変化します。
適正な金額の障害給付を受給するためには、各障害等級の認定に必要となる診断結果が、医師の診断書に漏れなく記載されていることが重要です。
主治医と緊密にコミュニケーションを取りながら、適正な障害等級の認定を受けられるように対応しましょう。
また、弁護士であれば、請求書の提出や医師とのコミュニケーションをサポートすることができます。
5、まとめ
出張中のケガは、積極的な私用や私的行為などによる場合を除いて、幅広く労災保険給付の対象となります。
労働基準監督署の窓口に相談しながら、該当する労災保険給付を漏れなく請求しましょう。
また、被災労働者は、労災保険給付を請求するだけでなく、会社に対して損害賠償を請求できることがあります。
損害賠償を請求する際には、法律の専門家である弁護士に相談することで、ご自身の被害に見合った適切な金額を算定することができます。
また、会社との示談交渉なども、弁護士がサポート可能です。
労災の被害に遭われてお困りの方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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