障害のある子どもが成人しても、養育費は請求できる?

2024年03月28日
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障害のある子どもが成人しても、養育費は請求できる?

子どもがいる夫婦が離婚する場合には、養育費の取り決めが必要になります。一般的には、「養育費の終期は子どもが成人するまで」と取り決めることが多いですが、夫婦の話し合いにより、支払期間を短くしたり長くしたりすることもできます。

子どもに障害がある場合には、通常よりも、医療費や教育費が多くかかる可能性があります。そのため、障害がある子どもを連れて離婚する方としては、「成人後も養育費の支払いを受け続けられるかどうか」が気になるでしょう。

本コラムでは、障害のある子どもと養育費の関係や、養育費の金額の算定方法に相手から養育費を支払ってもらえない場合の対処法などを、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。

1、障害がある子どもの成人以降の養育費

まず、障害がある子どもがいる場合は、いつまで養育費をもらうことができるのかについて解説します。

  1. (1)養育費の終期は子どもが成熟するまで

    養育費とは、未成熟子が成熟するまでの期間支払われるお金です
    「未成熟子」とは、経済的に自立して生活できない状態にある子どものことをいいます。一般的には、子どもが未成年のうちは未成熟子と判断されて、養育費の終期も「子どもが成人するまで」と定められることが多いです。

    なお、民法改正により、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられることになりましたが、改正前に「子どもが成年に達するまで養育費を支払う」と定められていた場合には、成年年齢が引き下げられたとしても、従来どおり20歳が養育費の終期となります。

  2. (2)障害がある子どもの場合には成人しても未成熟子と判断される可能性がある

    一般的には、子どもが成人した後は、子どもを監護する親の親権が終了することになり、それに伴って養育費の支払い義務も終了すると考えられています。
    しかし、子どもに障害がある場合には、成人以降も障害の治療のために入通院が必要であったり、障害のために通常の就職稼働ができなかったりすることもあります。
    このような状況にある場合には、成人したとしてもまだ未成熟子であるといえるため、成人以降も養育費の請求ができる可能性があるのです。

    ただし、「子どもに障害があれば常に成人以降の養育費の請求が認められる」というわけではありません。
    成人以降も養育費を請求する場合には、単に「障害があるから」という理由だけではなく、障害により経済的な自立が困難な事情を具体的に主張していくことが重要になります

2、障害がある子どもの養育費算定

以下では、障害がある子どもの養育費の金額を算定する方法を解説します。

  1. (1)養育費の一般的な相場は「養育費算定表」により算定可能

    養育費を決める際には、まずは養育費の金額の相場を基準としたうえで、夫婦で話し合って具体的な金額を決めることになります
    養育費の一般的な相場は、最高裁判所が公表している「養育費算定表」を利用することで簡単に算定することができます。
    養育費算定表は、子どもの人数および年齢に応じて、複数の表が準備されていますので、まずはご家庭の状況に応じた表を選択しましょう。
    各表には、権利者(養育費を請求する側)と義務者(養育費を支払う側)の収入に応じたグラフが記載されていますので、双方の収入が交わる部分が養育費の相場となります。

    養育費の算定表では、「3~5万円」など幅のある金額で相場が記載されているため、この幅の範囲内で養育費の金額を話し合っていくことになるでしょう。

  2. (2)子どもに障害がある場合には別途加算が認めらえる可能性もある

    最高裁判所が公表している養育費算定表はあくまでも標準的な家庭を想定したものであるため、特別な事情がある場合には別途に考慮する必要があります

    子どもに障害がある場合には、一般的な家庭に比べて、医療費や教育費が多くかかるケースも多いため、これらの出費を具体的に主張していくことで養育費の加算が認められる可能性があるでしょう。
    その際には、「養育費算定表で考慮されている医療費や教育費を上回る養育費が必要になる」ということを、具体的に主張することが重要になります。

3、養育費を支払ってくれなくなったときの対処法

以下では、離婚した元配偶者が養育費を支払ってくれない場合にとることのできる対処法を解説します。

  1. (1)債務名義がある場合

    債務名義とは、金銭の支払い請求権の内容および存在を公的に証明した文書のことです。
    養育費に関する債務名義としては、以下のようなものが挙げられます。

    • 公正証書
    • 調停調書
    • 審判書
    • 和解調書
    • 判決書


    このような債務名義があり、養育費の支払いが滞っている場合には、履行勧告や強制執行などの対応をとりましょう。

    ①履行勧告・履行命令
    調停調書、審判書、和解調書、判決書など家庭裁判所の手続きにより取り決めた内容を守らない場合には、履行勧告または履行命令という制度を利用することができます
    履行勧告は家庭裁判所が義務の履行を勧告する手続きであり、履行命令は家庭裁判所が義務の履行を命じる手続きとなります。

    履行命令には履行勧告とは異なり強制力を持ち、正当な理由なく履行命令に従わない人に対しては、10万円以下の過料の支払いが命じられる場合があります。
    なお、履行勧告および履行命令は、無料で利用することができます。

    ②強制執行
    債務名義がある状態で養育費の支払いが滞ったときには、直ちに強制執行を申し立てることが可能です

    強制執行を申し立て、相手の財産(預貯金や給料など)を差し押さえることができれば、そこから強制的に未払いの養育費を回収することができます。
  2. (2)債務名義がない場合

    離婚時に養育費の取り決めはしていたが債務名義はないという場合には、以下のような対応が必要になります。

    ① 相手との話し合い
    相手から養育費の支払いがないときは、まずは相手に対して、養育費の支払いをするように求めていきましょう

    基本的には電話やメールなどで支払いを求めることになるでしょうが、それに応じてくれない場合には、内容証明郵便を利用して書面を送るようにしてください。

    ② 養育費請求調停
    相手との話し合いでは養育費の支払いに応じてくれないときは、家庭裁判所に養育費請求調停の申し立てを行います
    調停では、基本的には養育費算定表に基づき権利者と義務者双方の収入をふまえて、相場となる養育費が提示されます。
    当事者双方がその金額に納得すれば調停は成立となりますが、どちらか一方が同意しない場合には調停は不成立となります。

    なお、子どもに障害がある場合には、調停でその事実を主張することで、養育費の終期や金額を考慮してもらえる可能性があります。

    ③ 審判
    調停が不成立になった場合は、自動的に審判という手続きに移行します
    調停は当事者の話し合いにより養育費の取り決めをする手続きであるのに対して、審判は裁判所が一切の事情をふまえて適切な養育費の取り決めをしてくれる手続きです。

    審判でも基本的には養育費算定表に基づいて金額が決められますが、「子どもに障害がある」という事情を主張すれば、養育費の終期や金額を考慮してもらえる可能性もあります。

    ④ 強制執行
    調停の成立または審判後も養育費の支払いがないという場合には、調停調書または審判書を債務名義として、強制執行を申し立てることができます

4、養育費に関するトラブルは弁護士への相談が必須

養育費に関するトラブルでお困りの方は、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)子どもの障害の特殊性をふまえた適切な金額を定めることができる

    子どもに障害がある場合には、一般的な子どもに比べて医療費や養育費が高くなる傾向にあるため、それらをふまえて適切な養育費の金額を決める必要があります。
    また、成人以降も就職が困難な状況であれば「未成熟子」と評価できる可能性もあるため、養育費の終期を延ばしてもらうことも検討しましょう。

    このように、障害のある子どもがいる場合には、子どもの特殊性に応じて養育費を決める必要があります
    専門家である弁護士なら、養育費算定表では考慮できないような事情もふまえて、適切な金額を定めることができます。

  2. (2)強制執行により未払いの養育費を強制的に回収できる

    養育費の滞納がある場合には、そのまま放置していると時効によって権利が消滅してしまいます
    養育費は子どもの生活にとって大切なお金であるため、監護親としてはしっかりと対応することが重要です。

    弁護士であれば、強制執行の手続きにより、未払いの養育費を強制的に回収することができます。
    また、離婚してから期間が経ってしまうと、「差し押さえるべき財産がわからない」という事態になる可能性もあります。
    弁護士に依頼すれば、財産開示手続きや第三者からの情報取得手続きなどの方法により相手の財産を特定することも可能であるため、まずは弁護士に相談してください

5、まとめ

一般的には、養育費とは「子どもが成人するまで支払われるお金」ですが、子どもに障害がある場合には成人した後も養育費を請求することができる可能性もあります。
その際には、「子どもの障害により成人後も経済的な自立が困難である」ということを具体的に主張することが必要であるため、専門家である弁護士のサポートを受けることも検討してください。

障害のある子どもを抱えての離婚をお考えの方は、まずは、ベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています