養育費を差し押さえられると生活できないと言われた場合の対応は?

2024年12月18日
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養育費を差し押さえられると生活できないと言われた場合の対応は?

長崎県では、養育費の取り決めを行うひとり親に対して、公正証書の作成に必要な経費などの補助を行っています。

養育費は、取り決めをしても、その後の支払いが滞ることが少なくありません。子どものためにも強制執行によりしっかりと回収していくことが重要ですが、相手が「差し押さえ」に対して抗議してくることもあります。

今回は、養育費の義務者から「養育費を差し押さえられると生活できない」などと言われて支払いを拒絶された場合の対応方法について、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。


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1、「養育費を差し押さえられると生活できない」と言われた場合は?

「養育費を差し押さえられると生活できない」などと言われ、支払いを拒絶されたとしても、以下のような方法で養育費を回収することができます

  1. (1)勤務先を特定して給与を差し押さえることができる

    養育費の支払いが滞ったため、義務者に対して養育費の支払いを催促すると「今、手元にお金がないから支払えない」「養育費を差し押さえられると生活できない」などと言われてしまうことがあります。

    しかし、養育費は、相手の手元にある財産以外からも回収することができます。たとえば、義務者が仕事をして収入を得ているのであれば、義務者の勤務先を特定して給与を差し押さえることができます

    義務者が働いている限り、毎月給与が支払われますので、給与を差し押さえることができれば、安定的に養育費の支払いを受けることが可能になります。

  2. (2)勤務先が不明でも第三者からの情報取得手続きにより特定が可能

    義務者の給与を差し押さえるためには、強制執行の申立ての際に権利者側で義務者の勤務先を特定して申立てをしなければなりません。そのため、義務者が離婚時に勤めていた会社を辞めて転職してしまったような場合、義務者の勤務先を特定することができず、差し押さえを断念してしまうケースもあります。

    しかし、改正民事執行法施行により、令和3年5月1日から新たに「第三者からの情報取得手続」が導入されました。この制度を利用することで、市区町村や日本年金機構から義務者の勤務先情報を入手することが可能です。また、これ以外にも義務者の預貯金や不動産に関する情報も取得することができますので、養育費の差し押さえが容易になりました。

    これまで養育が支払われず泣き寝入りしていた方も、同制度により差し押さえをできる可能性があります。詳しいお話は弁護士に相談してみてください。

2、強制執行で差し押さえできるもの

養育費の支払いが滞納した場合、裁判所に強制執行の申立てをすることで、義務者の財産から強制的に未払いの養育費を回収することができます。その際に、差し押さえることができる財産には、以下のようなものがあります。

  1. (1)給与や預貯金などの債権

    養育費の滞納が生じたときに差し押さえる財産として、もっとも一般的なのは、義務者の給与や預貯金などの債権です。

    ① 給与債権
    給与であれば、義務者の勤務先がわかれば差し押さえをすることができ、一度差し押さえをすれば、義務者が勤務先を退職するまで勤務先から毎月一定額の支払いを受けることができます。

    ただし、給与の差し押さえにより義務者が生活できない事態を避けるために、差し押さえできる金額には以下のような上限が設けられています。

    • 給与が月額66万円以下の場合:手取り額の2分の1
    • 給与が月額66万円以上の場合:手取り額から33万円を控除した金額


    ② 預貯金債権
    預貯金債権であれば、義務者が口座を有する金融機関名および支店名がわかれば、口座内にある預貯金を差し押さえることができます

    預貯金債権の差し押さえは、給与債権の差し押さえのように、差し押さえ対象額の上限はありませんので、滞納額の範囲内であればすべての預貯金を差し押さえることができます。

    しかし、給与債権のような継続的な効果はありませんので、差し押さえの対象は、あくまでも差し押さえ時点に存在している預貯金債権のみです。それ以降に入金された預貯金には差し押さえの効力は及びません。

  2. (2)家や土地などの不動産

    義務者が家や土地などの不動産を所有している場合、不動産を差し押さえて強制競売を行うことで、滞納分の養育費を回収することができます

    不動産は、高額な財産ですので、強制競売により売却できれば大きな金額を回収することができます。そのため、滞納額が高額であるときでも、一度に全額を回収できる可能性が高いでしょう。

    他方、不動産を差し押さえて強制競売を行い、未払い養育費を回収するには、少なくとも半年以上の期間がかかり、高額の予納金が必要になるといったデメリットがあります。そのため、経済的に余裕のない状況で行われることが多い養育費の差し押さえの場面では、不動産の差し押さえはあまり利用されていません。

  3. (3)現金、家具などの動産

    義務者が所有する現金、家具、貴金属、自動車などの動産も強制執行の対象財産となります
    しかし、動産は、義務者の生活に必要不可欠なものも含まれていますので、すべてが差し押さえの対象になるわけではなく、以下のような動産については、差し押さえが禁止されています。

    • 66万円までの現金
    • 生活に欠くことのできない衣服、寝具、家具など
    • 自営業などで必要となる器具・道具
    • 市場で売却できない物品


3、強制執行の流れ

養育費の未払いが生じた場合の強制執行のうち、義務者の給与を対象とした、債権差押命令申立ての手続きは、以下のような流れで進めていきます。

  1. (1)内容証明郵便で養育費を請求する

    養育費の滞納が生じたときは、まずは内容証明郵便を利用して、未払いの養育費の支払いを求めていきます。はじめから強制執行の申立てをすることもできますが、義務者が任意に支払いに応じてくれるのであれば時間や手間を省けますので、任意の交渉からスタートするのが一般的です。

  2. (2)必要書類を用意して地方裁判所で強制執行を申立てる

    内容証明郵便を利用した請求でも養育費の支払いに応じてくれないときは、これ以上交渉を続けても解決の見込みはありませんので、裁判所に強制執行の申立てを行います。

    強制執行の申立てにあたっては、以下のような書類が必要になります。

    • 申立書(債権差押命令申立書、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録)
    • 債務名義の正本(調停調書、審判書、判決、公正証書など)
    • 執行文
    • 債務名義正本の送達証明書


    養育費の支払いに関する合意が離婚協議書だった場合には、強制執行の前提として、債務名義を取得する必要がありますので、家庭裁判所に養育費請求調停の申立てが必要になります。

    相手が養育費を滞納したら、直ちに強制執行に着手するためにも、離婚時の養育費の取り決めは、公正証書にしておくことをおすすめします

  3. (3)義務者と第三債務者に債権差押命令が送付される

    強制執行の申立てが受理されると、義務者と第三債務者(勤務先)に対して、裁判所から債権差押命令が送付されます。

  4. (4)債権差押命令の送達日から1週間後に債権を取り立てできる

    債権差押命令の送達日の翌日から1週間が経過すると、第三債務者から差し押さえた給与の取り立てを行うことができます。債権者は、債務者の勤務先に連絡して、差し押さえた給与を直接債権者に支払うよう求めていきましょう。

  5. (5)取り立て後、裁判所へその内容を報告する

    差し押さえた債権の全額の取り立てが完了したら、裁判所に取立完了届を提出して、その内容を報告します。

    書類の記載ミスや提出遅延があると、手続きの進行に影響が出る可能性があるため、慎重に行いましょう。弁護士のサポートを受けることで、より確実に手続きを進めることができます。

4、養育費のトラブルは弁護士に相談を

養育費のトラブルは、弁護士に相談するのがおすすめです

  1. (1)相手との交渉を任せられる

    養育費の滞納が生じた場合、弁護士が交渉することで任意の支払いに応じてくれる可能性があります。弁護士は、支払計画の見直しや分割払いなどの解決策も提案し、ときには必要に応じて心理的なプレッシャーをかけ、支払いを促します。

    そのため、任意の交渉で養育費のトラブルが解決できる可能性が高くなるでしょう。

  2. (2)強制執行の手続きを依頼できる

    養育費の滞納は、最終的には強制執行の手続きにより解決することができます。しかし、強制執行の手続きを利用するには、専門的な知識と経験が必要になりますので、一般の方では対応が難しいといえます。

    弁護士に依頼すれば、複雑かつ面倒な強制執行の手続きをすべて任せることができます。相手の財産がわからないというケースでも、弁護士が財産開示や第三者からの情報取得手続きにより財産を把握することができますので、安心してお任せください。

  3. (3)養育費のトラブルに関して最適な解決策を提示してくれる

    養育費のトラブルの解決方法には、強制執行以外にもさまざまな方法があります。弁護士に相談をすれば状況に応じた最適な解決策を提示してくれますので、迅速にトラブルを解決することができます。おひとりで悩まず、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

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5、まとめ

「養育費を差し押さえられると生活できない」と主張された場合でも、強制執行により未払いの養育費を回収することができます。

ただし、相手の生活状況によっては、差押禁止債権の範囲変更が認められることもあり、そのようなケースでは養育費の支払いが完了するまでの期間が伸びる可能性があります。

弁護士に相談することで、相手の住所や差し押さえ対象の財産を特定できる可能性があります。養育費の滞納でお悩みの方、強制執行を検討中の方は、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスまでお早めにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています