「借金で養育費を払えない」と言われたときの支払義務と請求方法
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養育費は、離婚後の子どもの生活を支える重要なお金です。しかし、相手から「借金があるから払えない」などと言われたらどうすればいいのでしょうか。
令和3年度における厚生労働省の全国ひとり親世帯等調査によると、「養育費を受けたことがない」と答えた母子世帯は56.6%、父子世帯は85.7%となっています。
本コラムでは、借金を理由とした養育費減額請求への対応や支払ってもらう方法などについて、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。


1、相手に借金がある場合は養育費を支払ってもらえない?
離婚した相手に借金がある場合でも、養育費を支払ってもらうことは可能です。相手に借金がある場合や自己破産・個人再生した場合の支払い義務について、以下で解説していきます。
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(1)借金があっても養育費の支払い義務は免れない
相手に借金があったとしても、養育費の支払い義務を免れるわけではありません。子どもが経済的・身体的に自立して生活できるようになるまで生活を支えるのは、親の義務とされています。
離婚したとしても子どもの親であることに変わりはないため、離婚後も子どもの生活費用を分担する必要があります。そのため、離婚後に子どもの生活費用を負担していない親は、子どもの生活費用を負担している親に対して養育費を支払う義務があります。
借金を理由に養育費を支払わないことは、認められません。そのため、元配偶者に借金があったとしても養育費の請求は可能です。 -
(2)自己破産や個人再生しても養育費の支払い義務はなくならない
相手が自己破産や個人再生をしても、養育費の支払い義務は消滅しません。養育費は、自己破産や個人再生でも免除する対象にならない「非免責債務」とされているためです。
自己破産をすると多くの借金は免除されますが、養育費などの扶養義務にもとづく支払いは免除されません。つまり、自己破産をしたとしても、養育費の支払い義務は残り続けるのです。
また、債務を一部減額し分割で返済する個人再生をした場合も、養育費は減額対象にはなりません。したがって、相手が借金の返済に追われている状況であっても、養育費は正当な権利として請求できます。
ただし、現実的にお金のない相手から養育費をもらうのは容易なことではありません。弁護士のサポートを受けながら、強制執行による差し押さえも検討することをおすすめします。
2、養育費の減額を請求されたら応じるしかない?
相手から「借金があるため養育費を減額してほしい」と請求されても、必ずしも応じる義務はありません。養育費は子どもの生活を支えるためのものであり、借金とは関係なく支払うべきものだからです。
一度合意された養育費が減額されるのは、義務者の経済状況が大幅に悪化し収入が減少したと客観的に認められる場合に限定されます。そのため、不用意に応じるべきではなく、減額に応じるべき場面なのか、拒否をするべき場面なのかを検討する必要があります。
減額を受け入れるべきか、またどのくらい減額すべきか悩んだら、調停の申し立てや弁護士への相談も検討しましょう。
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3、借金がある相手に養育費を請求する方法
公証人の立会いのもと作成した“執行認諾文言の記載がある公正証書”を作成している場合や“調停等で養育費を合意した場合”は、強制執行による差し押さえも可能です。
以下では、借金がある相手に養育費を請求する方法を解説していきます。
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(1)強制執行力がある公正証書などの書面を作成している場合は差し押さえが可能
養育費の取り決めを強制執行力がある書面で残している場合、支払いが滞ったときに相手の給料や預貯金の差し押さえができます。
強制執行力がある書面とは、具体的に以下のような書面です。- 確定判決
- 和解調書
- 調停調書
- 審判調書
- 執行認諾文言の記載がある公正証書
なお、執行認諾文言の記載がある公正証書は、裁判所での手続きを経なくても公証役場で両者が合意すれば作成できます。執行認諾文言とは、取り決めた債務を履行しなかった場合は直ちに強制執行を受けても意義はないと承諾する旨の文言です。
養育費の取り決めをする際は、調停等の手続を利用するか、執行認諾文言付きの公正証書は作成しておくのをおすすめします。 -
(2)公正証書を作成していない場合は相手との交渉を進める
強制執行力がある書面を作成していない場合は、まず相手と養育費の支払いについて交渉を進めましょう。借金の有無にかかわらず養育費を支払う義務はあることを伝え、支払い日や金額・支払い方法などを具体的に話し合います。
もし合意ができたら、取り決めた内容を文書に残し、公正役場に公正証書の作成を申し込みます。公正証書の作成は任意ですが、養育費が支払われなかったときに備えて作成しておくことが望ましいです。 -
(3)話し合いがまとまらない場合は養育費請求調停を申し立てる
話し合いがまとまらない場合や相手が交渉に応じない場合は、養育費請求調停の申し立てを検討しましょう。養育費請求調停とは、子どもを監護している親がもう一方の親に養育費の支払いを求める調停手続きです。
調停では、裁判所の裁判官や調停委員を介して話し合いを進め、合意を目指します。調停が成立すると「調停調書」、調停が成立せず審判に移行すると「審判調書」が作成されます。
調停調書や審判調書があれば、約束通りに養育費が支払われない場合に、以下の「履行勧告」「履行命令」の申し立てが可能です。履行勧告 裁判所から支払いの履行を勧告し、督促する制度 履行命令 履行勧告に応じない場合、裁判所から期限までに支払うよう命令する制度
履行命令に正当な理由なく従わなかった場合、10万円以下の過料が科されます。
履行勧告や履行命令は比較的簡単な手続きで利用できるため、強制執行をする前に状況に応じて検討しましょう。 -
(4)弁護士に相談する
相手が借金を理由に養育費の支払いを拒否している場合は、弁護士への相談も検討しましょう。
強制執行は養育費を受け取るために有効な手段ですが、差し押さえる対象の財産や給料がなければ回収できません。また、相手が仕事を辞めて差し押さえる給料がなくなってしまう可能性もあります。
弁護士であれば、個別の状況を考慮した上でどの請求方法が適切か判断できます。相手との交渉を有利に進め、養育費を受け取る方法を見つけるためにも、弁護士への相談はおすすめです。
4、養育費のトラブルを弁護士に相談する3つのメリット
養育費の未払いが続いている場合や、借金を理由に支払いを拒否されている場合、ひとりで解決するのが難しいケースもあるでしょう。そのようなときは、弁護士に相談することでスムーズに問題を解決できる可能性があります。
弁護士に相談する3つのメリットについて、以下で具体的に解説していきます。
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(1)相手との交渉を任せることで自主的な支払いを促せる
弁護士に相手との交渉を任せることで、自主的な養育費の支払いを促せるメリットがあります。
養育費の支払いを求める交渉は、当事者同士だと感情的になりやすく、話し合いが難航するケースもあるでしょう。しかし、弁護士が介入することで、冷静かつ法的な根拠にもとづいた交渉が可能になります。
弁護士名義で内容証明郵便を送るだけでも、相手に心理的なプレッシャーを与え、自主的な支払いを促す効果が期待できます。 -
(2)公正証書の作成など法的な手続きのサポートができる
弁護士は、公正証書の作成や調停手続などを行うにあたって、法的な手続きをサポートします。
養育費の未払いを防ぐためには、強制執行力がある書面を作成することが重要です。公正証書に「強制執行認諾文言」を入れることや調停で合意を形成することで、相手が支払わなかった場合でも、裁判を経ずに差し押さえが可能になります。
しかし、具体的にどのように作成すればいいのかわからない方も多いでしょう。弁護士に依頼すれば、相手との交渉から公証役場、調停対応等のサポートを受け、スムーズに強制執行力がある書面を作成できます。 -
(3)履行勧告などの手続きを利用したほうがよいかアドバイスできる
弁護士にアドバイスを受けることで、履行勧告などの手続きを利用すべきかどうか適切に判断できます。
養育費の未払いが続く場合、家庭裁判所を通じて「履行勧告」や「履行命令」などを行う手段があります。しかし、履行勧告や履行命令を求めるかどうか、どのタイミングで行うべきか悩むケースも多いでしょう。
弁護士に相談すれば、相手の状況や支払い能力を考慮した上で、適切な手続きやタイミングを知ることができます。
5、まとめ
相手に借金があったとしても、親には子どもに対する扶養義務があるため、養育費の支払い義務はなくなりません。
養育費を確実に受け取るためには、公正証書など強制執行力のある書面を作成しておくことが重要です。強制執行力のある書面があれば、相手が支払いを拒否した場合でも、給与や預貯金の差し押さえができます。
強制執行力がある書面を作成していない場合は、相手との交渉からはじめる必要があります。交渉が必要な際には、養育費を受け取れる可能性を高めるためにも弁護士に相談するのが望ましいです。
養育費の請求方法や相手からの減額請求に悩んだら、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士へご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています