「役職定年制度」を導入する際に配慮すべきポイントと対応

2023年01月24日
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「役職定年制度」を導入する際に配慮すべきポイントと対応

平成28年の長崎県内の企業総数は、4万1846社でした。そのうち99%が中小企業であり、さらにその86.5%が小規模企業となっています。

高齢化が進む昨今では、企業内でも高齢の労働者が増えてきています。部長や課長といった管理職のポストが高齢の労働者で占められており、なかなか若手の登用が進まない企業も少なくないでしょう。そのような場合には、役職定年制度を導入することによって、企業組織内の人事の若返りや後進育成を図ることを検討してください。

ただし、役職定年制度には、対象者の年収が下がるなどの不利益も伴います。そのため、安易に役職定年制度の導入を進めてしまうと、トラブルが生じるリスクがあるのです。本コラムでは、役職定年制度を導入する際に配慮すべきポイントと注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、役職定年制度とは

役職定年制度とは、一定の年齢に達した労働者が部長や課長といった管理職ポストから退く制度のことをいいます。
わかりやすく表現すると、「役職そのものに定年を設ける制度」となります。
役職定年制度によって役職からは退くことになりますが、定年退職とは異なるため、企業と労働者との間の労働契約は役職定年以降も継続されます。

役職定年制度が広まっている背景には、定年年齢の延長があります。
昭和61年に60歳定年が企業の努力義務となり、平成6年には60歳未満定年が禁止されるようになりました。また、令和7年以降は65歳に定年年齢が延長されることになります
このように定年年齢が引き上げられたことによって、人件費の高騰や組織の高齢化などの問題が生じることになりました。
それを解決するための手段として、役職定年制度が広まっていったのです。

なお、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査によると、役職定年制度の導入率は、令和元年時点で28.1%であり、役職定年制度の適用対象年齢は、平均で57.8歳となっています。

2、役職定年制度を導入するメリットとデメリット

以下では、役職定年制度を導入することで企業にもたらされるメリットとデメリットを解説します。

  1. (1)役職定年制度を導入するメリット

    役職定年制度を導入することによって企業が得られるメリットとしては、以下のようなものがあります。

    ① 組織の若返りを図ることができる
    日本の年功序列制度のもとでは、年齢を重ねた労働者が部長や課長などの役職に就くことが通例となっています。
    そのため、定年退職するまでの間、同じ社員によって管理職ポストが独占されてしまうということも珍しくありませんでした。
    しかし、このような状況では、優秀な人材がいたとしても空いている管理職ポストがなく、若手社員の活躍の場を奪ってしまうことにもなりかねません。

    役職定年制度を導入することによって、管理職ポストの独占状態を解消することが可能になります。
    これにより、優秀な人材を積極的に管理職ポストに登用して組織の若返りを図ることができるのです

    ② 人件費を抑えることができる
    部長や課長などの管理職ポストに就いている労働者に対しては、基本給に加えて役職手当を支払わなければなりません。
    したがって、年齢を重ねた労働者が管理職ポストを独占している状況だと、企業としては、高額な人件費を負担することになります。
    65歳までの雇用確保が義務化されれば、企業が負担しなければならない人件費の負担も大きくなるため、人件費の削減は重要な経営課題となるでしょう。

    役職定年制度を導入することができれば、シニア人材の雇用を確保しつつ、人件費のコストを抑えることができます

    ③ キャリアシフトを促すことができる
    多くの会社では、一度管理職のポストについた社員は、定年まで管理職のポストにつき続けることになります。
    しかし、定年年齢の引き上げや雇用確保などによって、シニア人材が働く年数が延長している昨今では、肉体的・精神的にも衰えてきているシニア人材に管理職の重い責任を負わせるのは本人にとっても酷な状況となることもあります。

    役職定年制度によって役職を離れることによって、社員としても定年後の働き方をじっくりと考えることができる余裕が生まれるでしょう
    結果的に、社員にキャリアシフトを促すことができるというメリットがあるのです。
  2. (2)役職定年制度を導入するデメリット

    役職定年制度を導入することには、以下のようなデメリットが生じるリスクも存在します。

    ① モチベーションの低下
    役職定年制度を導入することによって、一定の年齢に達した場合には、管理職のポストを退かなければならなくなります。
    どれだけ業績を上げて会社に貢献をしたとしても、それ以上の昇進が見込めなくなるので、役職に就いた後の労働者のモチベーションを下げてしまう可能性があるのです

    また、役職定年制度によって役職を退いた労働者は、それまで支払われていた役職手当を得られなくなることになります。
    給料の減少という不利益を被ることからも、モチベーションが低下するおそれがあるでしょう。

    ② 肩書がなくなることによって活動が制限される
    管理職としてのポストを外れることになると、それまで出席していた会議や重要な社内情報へのアクセスが制限されてしまうことがあります。
    社員としてはこれまでできていた活動が制限されることになるため、モチベーションが低下してしまう可能性があるのです

    ③ 若手の部下に従わないケースもある
    役職定年制度を導入することによって、組織の若返りを図ることができます。
    その反面、それまで若手社員の上司であった労働者が若手社員の部下になることから、労働者の間でトラブルが生じるおそれもあります。
    特に役職を退いた労働者としては、これまでの経験やプライドがあるために、若手の上司からの指示に反発して、職場の雰囲気を損なってしまう可能性があるのです

3、導入の際に注意すべきポイント

役職定年制度を導入する場合には、以下の点に注意する必要があります。

  1. (1)キャリアデザイン研修の実施

    役職定年後の対象となった労働者は、さまざまな要因からモチベーションが低下する可能性があります。
    労働者のモチベーション低下を防ぐための方法のひとつが、役職定年者を対象にしたキャリアデザイン研修です。

    キャリアデザイン研修で以下のようなポイントを役職定年者に伝えることによって、役職定年後のモチベーション低下を回避して、継続した活躍を期待することができます。

    • 役職定年者への期待や役割
    • 役職定年後のキャリア形成のイメージ
    • 役職定年者の事例
  2. (2)役職定年者が活躍できる場を提供する

    役職定年後にモチベーションの低下が生じる原因としては、役職定年後の業務にやりがいを感じることができないということも挙げられます。
    したがって、役職定年後も仕事をするモチベーションを維持してもらうためには、役職定年者が活躍することができる場を提供することが大切です。

    たとえば、役職定年前と同様の働き方ができる新たな職務や肩書を与えたり、これまでの知識や経験をいかしたサポート役をお願いしたりするなどの対応を検討してみましょう。
    役職定年者は企業としても貴重な人材であるため、後進育成などに協力してもらうことで、組織をより強固なものにすることができます

4、制度を導入する際には弁護士に相談

役職定年制度を導入する際には、弁護士に相談をすることを検討してください。

  1. (1)役職定年制度の規定が無効になるケースもある

    役職定年制度を導入する場合には、就業規則の規定を変更することによって行うことになります。
    しかし、労働契約法では、労働者の合意なく、就業規則の変更によって労働契約内容を不利益な内容に変更することはできないとしています(労働契約法9条)。
    例外的に、その変更が合理的なものであれば就業規則の変更による労働契約内容の不利益変更も可能になります(労働契約法10条)。
    ただし、変更が合理的であるかどうかについては、慎重に判断する必要があります。

    就業規則の変更による役職定年制度の合理性が争われた裁判例には、経費削減による経営状況の改善の必要性が差し迫ったものではなく、労働者が受ける不利益の程度が大きいとして、変更の合理性を否定したものがあります(熊本地裁平成26年1月24日判決)。
    役職定年制度の導入にあたっては、導入の必要性や内容の相当性などを十分に検討する必要があるのです

  2. (2)適切な制度設計のためには専門家である弁護士のサポートが不可欠

    役職定年制度の内容によっては、対象となる労働者から訴訟を提起されて、その合理性が争われるリスクがあります。
    裁判で変更の合理性が認められなければ、差額分の給料を支払わなければならず、企業としても大きな負担となるのです。
    制度設計を行うため、役職定年制度を導入する際には、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくようにしましょう

5、まとめ

役職定年制度は、組織の若返りを図り、高騰する人件費を抑えることができるというメリットがあるため、多くの企業が利用しています。
ただし、制度を導入するにあたっては、対象となる労働者への不利益にも配慮した内容にする必要があります。
適切な制度設計を行うためにも、役職制度を導入する際には、まずは弁護士に相談してください。

役職定年制度の導入を検討している企業や、制度の対象となる社員とのトラブルにお困りの企業は、まずはベリーベスト法律事務所までご連絡ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています