残業代が未払いのとき、企業が受ける罰則は?
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令和3年度に、長時間労働が疑われるとして長崎県内の労働基準監督署が監督指導を行った事業場は437事業場でした。そのうち18事業場には、賃金不払残業があったと認定されています。
残業代(残業手当)を正しく支払わない会社は、労働基準監督署による臨検・行政指導や、刑事罰を受ける可能性があります。会社としては、残業代に関するルールを正しく理解したうえで、残業代未払いの発生を防ぐことが大切です。
もし未払い残業代について従業員とトラブルになってしまった場合には、弁護士にご相談ください。本コラムでは、残業代が未払いの会社が受けるペナルティ(罰則)や、残業代について誤解されやすいポイント、未払い残業代が発生している場合に企業がとるべき対応などについて、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。
目次
1、残業代が未払いの会社が受けるペナルティ(罰則)
会社は、従業員に対して、労働契約および労働基準法のルールに従いながら、適切に残業代を支払わなければなりません。
もし残業代の支払いを怠った場合には、以下のようなペナルティを受けることになります。
- 未払い残業代全額の支払義務が発生
- 労働基準監督署による臨検・行政指導
- 刑事罰
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(1)未払い残業代全額の支払義務が発生
企業は、従業員に対して、労働契約や労働基準法に基づいて発生した残業代の全額を支払う義務を負います。
従業員に未払い残業代を請求された場合は、客観的に発生している残業代の全額を支払わなければなりません。
会社にとっては突発的な支出となり、経済的なダメージを受けてしまう場合もあるでしょう。 -
(2)労働基準監督署による臨検・行政指導
残業代を正しく支払わないことは労働基準法違反に当たるため、労働基準監督署による臨検(立ち入り調査)の対象となります(労働基準法第101条第1項)。
臨検調査を受けた会社は、労働基準監督官の求めに応じて、帳簿・書類の提出や尋問への回答を行わなければなりません。
場合によっては業務をストップして対応する必要があるため、それ自体が会社にとって大きな負担となる可能性もあります。
また、労働基準法違反に当たる問題が発見されれば、労働基準監督官によって是正勧告などの行政指導が行われます。
行政指導に従わなければ刑事処分が行われる可能性もある点に注意してください。 -
(3)刑事罰
残業代の未払いは、労働基準法に基づく刑事罰の対象です。法定刑は「30万円以下の罰金」とされています(労働基準法第120条第1号)。
基本的に、いきなり刑事罰が科されることはありません。しかし、労働基準監督官による行政指導を無視し続けていると、最終的には刑事罰の対象になってしまいます。
なお、事業主のために行為した代理人、または使用人その他の従業者が残業代未払いを主導した場合には、事業主にも「30万円以下の罰金」が科されます(同法第121条第1項)。
事業主が残業代未払いを知り、その防止に必要な措置を講じなかった場合にも、同様に、処罰の対象になり得ます(同条第2項)。
2、残業代について誤解しやすいポイント
企業が残業代に関するルールを誤解していて、気づかないうちに未払い残業代が発生してしまう、という事例は多々あります。
従業員の残業代を管理する際には、特に以下のポイントについて正しく理解しておくことが重要です。
- 管理職でも残業代を支払うべき場合が多い
- 固定残業代制は追加残業代が発生することがある
- 準備時間や手待ち時間、片付け時間にも残業代が発生する
- 残業代が発生しない労働者でも、深夜手当は発生する
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(1)管理職でも残業代を支払うべき場合が多い
「管理職には一律残業代を支払う必要がない」と誤解されている方は多くおられます。
労働基準法上「管理監督者」には残業代の支払いが不要とされています(同法第41条第2号)。
しかし、労働基準法上の管理監督者とは、権限・裁量・待遇などをふまえたうえで「経営者と一体的な立場にある」と評価できる従業員のみを指します。
したがって、労働基準法上の「管理監督者」と会社内の役職としての「管理職」は、必ずしもイコールではないのです。
むしろ、判例法理に従えば、現実の管理職従業員の大半は、労働基準法上の管理監督者に該当しない可能性が高いとも考えられます。
会社内の役職が管理職であっても、労働基準法上残業代の支払が不要とされている管理監督者に該当しないのであれば、残業代が発生するという点に注意してください。 -
(2)固定残業代制は追加残業代が発生することがある
毎月決まった残業代を支給する「固定残業代制」を導入している企業は多くあります。
しかし、固定残業代制に関するルールについて誤解されている場合も多々あります。
固定残業代制を適用する場合、従業員に対して以下の事項を明示しなければなりません。- ① 固定残業代を除いた基本給の額
- ② 固定残業時間と固定残業代の計算方法
- ③ 固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働に対して、割増賃金を追加で支払う旨
上記③で示されているように、固定残業代制を適用する従業員にも、固定残業時間を超えた場合には残業代を支払わなければなりません。
「固定残業代さえ払えば、それ以上の支払いは必要ない」というのは誤解であるという点に注意してください。 -
(3)準備時間や手待ち時間、片付け時間にも残業代が発生する
従業員が会社の指揮命令下に置かれている時間については、労働時間として残業代が発生します。
実際の業務に従事している時間だけでなく、準備時間・手待ち時間・片付け時間なども、労働時間に含まれます。
これらの時間について残業代を支払っていないと、後でまとめて未払い残業代を請求される可能性があります。 -
(4)残業代が発生しない労働者でも、深夜手当は発生する
労働基準法上、一部の従業員については、時間外労働や休日労働に関する残業代の支払いが不要とされています。
しかし、残業代の支払いが不要な従業員についても、深夜手当は支払う必要があるのです。
「深夜手当」とは、午後10時から午前5時までに行われる労働に発生する手当です。通常の賃金に対して25%以上の割増率が適用されます。<残業代は発生しないが、深夜手当は発生する労働者の例>- 専門業務型裁量労働制で働く労働者※
- 企画業務型裁量労働制で働く労働者※
- 管理監督者
※裁量労働制の労働者については、みなし労働時間が適用されます。みなし労働時間が法定労働時間を超えていれば、超過分については割増賃金の支払いが必要ですが、実労働時間に応じた残業代の支払いは不要です。
ただし、裁量労働制が適用される労働者にも、深夜手当は支払う必要があります。
残業代が発生しない労働者については、労働時間の管理がおろそかになりがちです。
会社が認識していない深夜労働が行われて、知らないうちに深夜手当が発生し、まとめて請求されてしまうというケースが存在することについても留意しておいてください。
3、未払い残業代が発生している場合の対応
従業員から未払い残業代の請求を受けた場合、会社としては以下の対応を行いましょう。
- 従業員と和解交渉を行う
- 労働審判・訴訟で争う
- 残業代未払いの再発防止策を検討する
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(1)従業員と和解交渉を行う
従業員に未払い残業代が請求された場合には、穏便に解決できればそれが最善です。
原則として、従業員側が主張する残業の事実が認められるのであれば、残業に基づき発生した未払残業代をそのまま支払うべきです。
一方で、従業員側の主張に根拠がないと思われる場合には、会社としては争わざるを得ないでしょう。
しかし、あまりにも紛争が長引くと、対応するための人件費などがかさんで経済的損失が拡大したり、業務が圧迫されたりする可能性もあります。
そのため、従業員側の主張の中で根拠がある部分とない部分を見極め、合理的なラインで和解することも検討すべきです。
和解交渉においては、専門的な知識と経験を持つ弁護士と相談しながら対応することをおすすめします。 -
(2)労働審判・訴訟で争う
従業員から労働審判の申立てや訴訟の提起を受けた場合には、各手続きへの対応が必要となります。
企業としては、従業員側が主張する残業の事実や関連する証拠について、ポイントを絞って反論することが求められます。
「認めるべきものは認め、争うべきものは争う」という区別を明確にしながら、メリハリのある方針によって労働審判や訴訟を進めることが重要です。
労働審判や訴訟を行う際の方針については、弁護士に相談しましょう。 -
(3)残業代未払いの再発防止策を検討する
会社が残業代未払いの事実を把握した場合には、同じようなトラブルを繰り返さないように、再発防止策を検討することも重要です。
たとえば勤怠管理システムの導入や、人事部面談による労働時間の把握などを通じて、従業員の労働時間と残業代を適切に管理しましょう。
弁護士は、残業代未払いの再発防止策についても、会社の状況に合わせたアドバイスを提供することができます。
4、従業員とのトラブルは弁護士にご相談を
従業員との間で残業代未払いなどのトラブルが発生した場合には、弁護士に相談してください。
弁護士は、従業員との協議・労働審判・訴訟などを通じて、残業代未払いのトラブルを適切に解決するためのサポートを行います。
会社が受ける損害を最小限に抑える方法や、今後のトラブルのリスクを軽減する方法についても、クライアント企業の状況に応じて具体的にアドバイスします。
従業員とのトラブルにお悩みの企業経営者は、お早めに、弁護士までご相談ください。
5、まとめ
労働契約・労働基準法に基づく残業代を正しく支払わないと、従業員から未払い残業代の請求を受けるほか、労働基準監督官による行政指導や刑事罰の対象となる可能性もあります。
コンプライアンスの観点やトラブルによる会社の損失を回避する観点から、労働時間と残業代の管理を適切に行いましょう。
残業代の未払いに関して、従業員との間でトラブルになってしまった場合には、お早めに、弁護士に相談してください。
ベリーベスト法律事務所にご連絡いただければ、労働問題の経験豊富な弁護士が、親身になって対応いたします。
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