職務怠慢な従業員に対する処分の流れと注意点を弁護士が解説
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会社内に職務怠慢な従業員がいると、業務効率が低下するだけでなく、周囲の従業員の士気やモチベーションの低下を招くなどの悪影響が生じてしまいます。
このような従業員がいる場合、会社としては、放置するのではなくしっかりと対処することが大切です。ただし、「職務怠慢だから」といっていきなり懲戒解雇としてしまうと、後に懲戒処分の有効性が争われるリスクもありますので、段階を踏みながら慎重に進めていく必要があります。
本コラムでは、職務怠慢な従業員に対する処分の流れと注意点をベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。
1、職務怠慢とは? 具体的な三つの該当例
まず、従業員の行動や態度が職務怠慢にあたる場合について、三つの例を紹介します。
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(1)遅刻・早退や無断欠勤を繰り返す
遅刻や早退、無断欠勤を繰り返すことは職務怠慢といえます。
また、従業員にはそれぞれ割り振られた仕事があるため、遅刻や無断欠勤が頻繁に発生すると、業務効率が落ちるだけでなく、真面目に働いている他の従業員がそのしわ寄せを受けてしまうことから、会社全体の雰囲気も悪くなってしまうおそれもあります。 -
(2)会社から与えられた仕事をしない
会社から仕事を与えられても、面倒な仕事は他の人に任せてしまい、簡単な仕事でも時間をかけて処理することは、職務怠慢といえます。
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(3)会社の許可なく頻繁に職場を離れる
たびたび職場を離れて、タバコ休憩やトイレ休憩などをとろうとすることも職務怠慢といえます。
また、悪質な場合には、職場を離れてパチンコをするなどのケースもあります。
2、職務怠慢を理由に懲戒処分を下す流れと注意点
以下では、職務怠慢な従業員に対して懲戒処分を行う場合の流れや注意点を解説します。
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(1)懲戒処分の種類
以下では、代表的な懲戒処分の種類を紹介します。
① 戒告
「戒告」とは将来を戒める処分のことです。
対象となる従業員に口頭で注意を言い渡されるため、始末書の提出を伴わないのが一般的です。
戒告は、懲戒処分のなかでも最も軽いものとなります。
② けん責
「けん責」とは、戒告と同様に将来を戒めたうえで、始末書の提出も求める処分です。
③ 減給
「減給」とは、従業員に支払う給料から一定額を差し引く処分をいいます。
なお、減給金額には、以下のような制限が設けられています。- 1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えないこと
- 総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えないこと
④ 出勤停止
「出勤停止」とは、従業員の就労を一定期間禁止する処分です。
出勤停止期間中は、従業員に対して給料の支給はありません。
また、出勤停止期間は、勤続年数に通算されないことが一般的です。
⑤ 降格
「降格」とは、役職や等級を引き下げる処分をいいます。
会社によっては「降級」や「降職」と呼ばれることもあります。
⑥ 諭旨解雇
「諭旨解雇」とは、期限内に退職届を提出するよう勧告して、期限内に提出がない場合に自動的に解雇する処分です。
最終的には解雇となる点では懲戒解雇と共通しますが、従業員に退職の余地を与えている点で温情的な措置といえます。
⑦ 懲戒解雇
「懲戒解雇」とは、従業員との労働契約を会社が一方的に終了させる処分をいいます。
懲戒解雇は、懲戒処分のなかでも最も重い処分とされています。 -
(2)懲戒処分を行う場合の流れ
懲戒処分を行う場合には、以下のような流れで進めていきます。
① 就業規則への懲戒事由の規定
懲戒処分を行うには、前提として就業規則において懲戒の種類と懲戒事由を定めておくことが必要です。
そのため、まずは、就業規則の規定がどうなっているかを確認しましょう。
② 事実確認のための調査
従業員による非違行為が発覚した場合には、就業規則上の懲戒事由に該当するかどうかの事実関係を調査する必要があります。
十分な事実確認をせずに懲戒処分をしてしまうと、懲戒処分の無効を主張されるリスクがあるため、「非違行為をした」という事実を証明するための確かな証拠を集めることが大切です。
③ 弁明の機会の付与
懲戒処分が「懲戒権の濫用」といわれないためにも、懲戒処分を行う際には適正な手続きをふむことが必要になります。
従業員に対して弁明の機会を付与することは法律上の義務ではありませんが、従業員の反論を一切聞かずに懲戒処分を行うと、懲戒権の濫用として争われるリスクが高くなります。
したがって、非違行為をした従業員に対しては、弁明の機会を与えることをおすすめします。
④ 懲戒処分の決定および通知
調査及び従業員の弁明を踏まえて、従業員に対する懲戒処分の内容を決定します。
懲戒処分の通知方法については法律上の定めはないため、口頭での通知でも足りますが、対象となる従業員に懲戒処分の重大性を理解してもらって問題行動を改めてもらうためにも、書面で通知するのが望ましいといえます。 -
(3)懲戒処分を行う際の注意点
以下では、懲戒処分を行う際に注意すべき点を解説します。
① 非違行為の性質・程度に応じた懲戒処分を選択する
懲戒処分には、最も軽い処分である戒告から最も重い処分である懲戒解雇までさまざまな種類があります。
懲戒処分は、非違行為の性質や程度に応じた相当な処分を選択する必要がありますので、重すぎる処分を選択してしまうと、「懲戒権の濫用」として懲戒処分が無効になってしまうおそれがあります。
「職務怠慢な従業員に辞めてもらいたいから」といって、いきなり懲戒解雇をしてしまうと、不当解雇として争われるリスクが高くなることに注意してください。
② 職務怠慢な従業員にはまずは指導により改善を促す
従業員に対して問題行動を自覚してもらうためには、懲戒処分によって制裁するのではなく、指導を行うほうが望ましいケースがあります。
そのため、職務怠慢な従業員がいる場合には、懲戒処分を行う前に、まずは対象となる従業員を指導して自発的な改善を促すことが大切です。
また、指導を行ったことについて、客観的な記録に残していくことが重要です。
労働者に対して何度も丁寧な指導を行ったけれども職務怠慢は改善しなかった、という証拠を残すことで、後々懲戒処分を行った際に争われるリスクを少なくすることができます。
3、職務怠慢に関する裁判例
以下では、従業員の職務怠慢が問題になった裁判例を紹介します(横浜地裁昭和57年2月25日判決)。
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(1)事案の概要
従業員(X)は、半年間に合計24回の無届の遅刻および合計14日間の欠勤を繰り返していました。
会社(Y)は、上司を通して、Xに対する再三の注意とけん責処分を行いました。
しかし、その後も勤務態度は改まらず、無断遅刻や欠勤を繰り返しました。
そこで、YはXに対し、就労の意思を確認したところ、反省の意を表明したことから訓戒処分にとどめました。
しかし、Xは、訓戒処分を受けた翌月も無届の欠勤1回、遅刻4回があり、改善の余地がみられないことから、YはXを懲戒解雇としました。
これに対し、Xは懲戒解雇の無効を主張し、地位保全等の仮処分を求めて提訴したのです。 -
(2)裁判所の判断
裁判所は、以下のように判断して、本件懲戒解雇は有効であると認めました。
- Yでは、懲戒事由として、正当な理由なく遅刻、早退、欠勤を繰り返すことを規定している
- Xは胃病や自動車の故障が遅刻や欠勤の理由とするが、そのような事情があったとしても無届の遅刻や欠勤には正当な理由がない
- 事前に届出のない遅刻や欠勤によりYの業務や職場秩序に混乱が生じた
- Xは入社当初から勤怠不良で、上司からの再三の注意訓戒によっても改善がなかった
- けん責処分や訓戒処分後も無断遅刻や欠勤を重ねた
このように、無断遅刻や欠勤を繰り返す従業員がいる場合には最終的に懲戒解雇を選択することも可能ですが、懲戒権の濫用にならないようにするために、段階的に処分を行っていくことが必要になります。
4、従業員の処分に関する悩みを弁護士に相談するメリット
従業員の処分に関するお悩みは、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)就業規則の規定を見直すことができる
従業員に対して懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒処分の種類と懲戒事由が規定されている必要があります。
これまで就業規則の見直しをしてこなかった企業や一般的なひな形を利用している企業では、いざ従業員に処分を下そうとしても、就業規則の規定がネックになり適切な処分が行えない場合もあるでしょう。
弁護士に相談すれば、企業の実情に応じた最適な就業規則になるようにアドバイスを受けられます。
将来、従業員への処分で困らないようにするためにも、早めに弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)懲戒処分が無効になるリスクを減らすことができる
就業規則に懲戒処分の規定があったとしても、懲戒権の濫用にあたる場合には、懲戒処分は無効になってしまいます。
懲戒処分を行う際には、事前の調査や弁明の機会の付与など必要な手続きがいくつかあるため、適正に進行することが大切です。
また、選択した懲戒処分の種類によっては相当性を欠き無効と判断されるリスクもありますので、段階的に処分することも必要になります。
専門家である弁護士に相談すれば、懲戒処分が無効と判断されることを予防するための対応をとりやすくなります。
5、まとめ
職務怠慢な従業員がいる場合には、業務効率の低下や職場環境の悪化などの問題が生じるため、早めに適切な処分を検討する必要があります。
ただし、職務怠慢だからといって、いきなり懲戒解雇を選択してしまうと、不当解雇として争われるリスクもあります。
そのため、手続きは慎重に進めていくことが大切です。
企業の経営者で、従業員への懲戒処分を検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています