出勤拒否する従業員の対応は? 懲戒解雇の判断基準を弁護士が解説
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出勤拒否とは、何らかの理由で労働者が会社への出勤を拒否することをいいます。出勤拒否をする労働者を放置していると他の労働者にも悪影響が生じ、職場内の雰囲気が悪化するおそれもあります。そのため、企業として適切に対応することが求められます。
ただし、出勤拒否への対応は、労働者の出勤拒否の理由に応じて柔軟に行っていかなければなりません。きちんとした手順を踏まなければ、労働者から訴えられてしまうリスクもありますので注意が必要です。
今回は、出勤拒否する労働者への対応や懲戒解雇の判断基準などについて、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。
目次
1、出勤拒否は、理由ごとに対応を変えなければならない
そもそも出勤拒否とはどのような行為なのでしょうか。以下では、出勤拒否の概要と出勤拒否の理由に応じた対応方法を説明します。
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(1)出勤拒否とは
出勤拒否とは、何らかの理由で労働者が会社への出勤を拒否することをいいます。
出勤拒否には大きく分けて、以下の2種類があります。
① 出勤する意思があるが出勤できない状態- 感染症やうつ病などの体調不良
- 家族の看護、介護などの事情
- 復職したいが勤務形態に不安がある
- パワハラなど職場環境に対する不満
② 出勤する意思がない状態- 仕事への不満、モチベーションの低下
- 理由は希薄で、ただやる気がない
出勤を拒否する労働者がいると、他の労働者にも悪影響を及ぼしてしまいますので、そのまま放置するのではなく、適切な対応が必要になります。
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(2)出勤拒否の理由に応じた5つの対応方法
労働者による出勤拒否があった場合、出勤拒否の理由に応じて適切な対応をとることが求められます。以下では、主な出勤拒否の理由ごとの対応方法を説明します。
① うつ病などの体調不良
労働者がうつ病などの体調不良を理由に出勤を拒否している場合、会社側としては原則として労働者を休ませなければなりません。
まずは労働者に対して診断書の提出を求め、就業が困難な状態であれば休職制度の利用をすすめるとよいでしょう。引き継ぎの必要性や業務の多忙さを理由に無理して働かせてしまうと、安全配慮義務違反を理由として訴えられてしまうリスクもありますので慎重な対応が必要です。仮に労働者が説得しても不合理な理由で出社せず、診断書の提出にも応じない場合には、従業員を解雇することも含めて検討する必要があります。
② 家族の介護・看護などの家庭の事情
家族の突然の病気により、介護や看護が必要になり、出勤できなくなるケースがあります。
この場合、有給も使い果たし、突然の家庭の変化に心身ともに疲弊して、出社できなくなってしまうケースもあるでしょう。介護休暇、看護休暇などを適切に取得できるよう、サポートし、復職に向けて道筋を立てられるようにフォローしましょう。
③ 復職をめぐるトラブル
会社は、労働者の復職にあたっては、労働者の健康状態や家庭の事情などを踏まえて、以下のような配慮をしなければなりません。
- 短時間勤務
- 軽作業や定型業務への従事
- 残業や深夜業務の禁止
- 試し出勤
これらの配慮をすることなく業務を命じてしまうと、再び体調を崩してしまう、家庭との両立ができず離職につながる、などのトラブルが生じてしまうおそれがあります。
出勤拒否の理由が復職をめぐるトラブルである場合には、業務を軽減するなど段階的に職場への復帰を認めてあげるとよいでしょう。
④ パワハラなどの職場環境
出勤拒否の理由がパワハラやセクハラなどの職場環境にある場合、会社側にはその原因を取り除くことが求められます。
具体的には、以下のような対処を検討する必要があります。
- 事実関係の調査
- 被害者への配慮措置(関係改善に向けた援助、配置転換など)
- 加害者への処分
- 再発防止のための対策
会社側で十分な対策を講じたにもかかわらず、それでも出勤を拒否するようであれば、出勤拒否をする労働者に対して懲戒処分や解雇などを検討することになります。
⑤ 新型コロナウイルスなど感染症への不安
新型コロナウイルスなど感染症への不安が出勤拒否の理由である場合、業務の内容次第では、会社側に感染症リスクへの不安を取り除く義務が認められる場合があります。
具体的には、以下のような対処を検討する必要があります。
- 感染予防対策の実施
- テレワークや在宅勤務の導入
- 感染症リスクの低い業務への配転
会社側で十分な対策を講じたにもかかわらず、それでも出勤を拒否するようであれば、出勤拒否をする労働者に対して懲戒処分や解雇などを検討することになります。
2、出勤拒否に対して懲戒処分できる?
出勤拒否に対して懲戒処分をすることができるのでしょうか。
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(1)懲戒処分の種類
懲戒処分とは、労働者の企業秩序や職場規律に違反する行為に対して、制裁として行う不利益処分をいいます。懲戒処分は、労働者の問題行動に対して制裁を与え、企業秩序を維持回復するという目的で行われます。
このような懲戒処分には、以下のような種類があります。
① 戒告・譴責
戒告および譴責は、いずれも労働者に対し反省を求め、将来に向けて戒める処分です。戒告は、口頭での反省が求められる処分で、譴責は、始末書の提出など書面での反省が求められる処分という違いがあります。
② 減給
減給とは、労働者の給料から一定額を差し引く処分をいいます。
減給の金額については、労働基準法により以下のような制限が設けられています。
- 1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えないこと
- 減給総額が一賃金支払期において支払われる賃金総額の10分の1を超えないこと
③ 出勤停止
出勤停止とは、労働者との雇用契約を維持したまま、一定期間就労を禁止する処分をいいます。出勤停止期間は、勤続年数に通算されず、賃金も支払われないのが一般的です。
④ 降格・降職
降格・降職とは、労働者の役職・職位・職能資格などを引き下げる処分をいいます。たとえば、部長から課長などに役職を下げる処分がこれにあたります。
⑤ 諭旨解雇
諭旨解雇とは、労働者に対して退職届を提出するよう勧告し、それに応じれば退職扱いとし、提出がないときは懲戒解雇とする処分をいいます。
⑥ 懲戒解雇
懲戒解雇とは、労働者との間の労働契約を一方的に解消する処分をいいます。懲戒処分の中でももっとも重い処分になります。 -
(2)出勤拒否に対する懲戒処分の有効性
では、労働者の出勤拒否に対して懲戒処分をすることができるのでしょうか。以下では、出勤拒否に対する懲戒処分の有効性について説明します。
① 就業規則に懲戒事由と種類が規定されていること
出勤拒否に対して懲戒処分をするためには、出勤拒否が懲戒事由に該当することを就業規則に明記して、それが周知されていることが必要です。
また、懲戒処分の種類も就業規則に明記されていなければなりません。
② 労働者の行為が懲戒事由に該当すること
懲戒処分を行うためには、労働者の行為が懲戒事由に該当することが必要です。
懲戒事由として出勤拒否が明記されている場合には、労働者による出勤拒否があれば、懲戒事由に該当するといえるでしょう。
ただし、出勤拒否の理由がうつ病などの体調不良、復職をめぐるトラブル、パワハラなどの職場環境の問題、新型コロナウイルス感染症への不安などにある場合、その原因が取り除かれていなければ、正当な理由のある出勤拒否といえます。そのため、このようなケースでは直ちに懲戒事由に該当するとはいえないでしょう。労働者がどのような言い分で出勤を拒んでいて、会社はそれに対してどのような対応を行ったのかを客観的な資料に残していくことが重要となります。
③ 懲戒処分に相当性があること
懲戒処分は、社会通念上相当であることが要求されますので、処分に相当性があることも必要になります。
出勤拒否という違反行為に対して、選択した懲戒処分の種類が重すぎるという場合には、懲戒処分が無効なる可能性もありますので注意が必要です。労働者の行為態様、動機、業務への影響、反省の態度、過去の処分歴などを踏まえて、適正な処分を選択することが大切です。
④ 適正な手続きにより行われたこと
懲戒処分にあたっては、労働者に対して弁明の機会を付与するなどの手続きの相当性も要求されます。このような手続きを踏まずにいきなり懲戒処分を行うと、懲戒処分が無効になってしまう可能性もありますので注意が必要です。
3、出勤拒否に対応する手順
出勤拒否に対しては、以下のような手順で対応する必要があります。
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(1)従業員と話し合う
まずは、従業員と話し合いを行い、出勤を拒否する理由や原因などを確認するようにしましょう。従業員の出勤拒否に正当な理由がある場合には、企業としてもその理由や原因を除去するために適切な対策をとることが求められますので、きちんと話し合いを行うことが重要です。そして話し合った内容を記録に残しておくことが肝心です。
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(2)出社命令を明確に出す
従業員の出勤拒否に正当な理由がないときは、会社に出勤するよう説得するとともに、出社命令を出す必要があります。
出社命令は、口頭での指示ではなく、文書やメールなど証拠に残る形で出すことが大切です。 -
(3)説得に応じない場合の懲戒処分を検討する
会社から出社命令が出されても、出社に応じず、出勤を拒否し続けるような場合には、懲戒処分を検討することになります。
出勤拒否は、出社命令という会社からの業務命令に違反する行為になりますので、就業規則で出勤拒否を懲戒事由と定めていれば、懲戒処分の対象となります。ただし、いきなり懲戒解雇をすることはできず、まずは戒告・譴責など軽い処分から行うようにしましょう。 -
(4)退職勧奨を検討する
会社から懲戒処分が行われても、出社に応じず、出勤を拒否し続けるような場合には、退職勧奨を検討します。
退職勧奨とは、会社側から労働者に対して自発的な退職を促すことをいいます。退職勧奨に応じるかどうかは、従業員の自由な意思に委ねられていますので、会社側は退職を強要してはいけません。
なお、退職勧奨を拒否して出勤拒否を続けていると、懲戒解雇のリスクがあることもしっかりと説明してあげましょう。 -
(5)解雇を検討する
上記の手順を踏んでも出社に応じず、出勤を拒否し続けるような場合には、最終的に解雇を検討することになります。解雇は、労働者との雇用契約を解消するという重大な処分になりますので、あくまでも最終手段として行う必要があります。
他にとり得る手段がある場合には、解雇が無効になるリスクもありますので慎重に進めていくことが重要です。
4、出勤の拒否が問題になった裁判例を解説
以下では、出勤拒否が問題になった裁判例を紹介します。
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(1)企業側の主張が認められた裁判例|東京地裁平成28年1月26日判決
【事案の概要】
Xは、航空機の製造・販売などの事業を行うY社のA製作所で勤務していました。Xは、体調不良を理由に出勤を拒否し、休職扱いとなっていたところ、同居の家族による支援が不可欠であるとの理由で現住所から通勤できる勤務地への復職を希望していました。しかし、それが認められないため出勤を拒否していました。
Yは、Xの出勤拒否が重大な業務命令違反であることからXを解雇したところ、Xから不当解雇を理由に訴えられたのが本件事案です。
【裁判所の判断】
裁判所は、以下のような理由からXの出勤拒否を理由に解雇したYの処分を有効と認め、Xの請求を棄却しました。
出勤拒否による解雇が認められた理由- XはA製作所で技能職として労務提供することが予定されており、他の事業所に配転することは想定されていなかった
- 生活全般の支援をするかどうかは本来的に家族内部で検討・解決すべき課題であるから、それを理由とする出勤拒否は正当な理由に基づくものとはいえない
- 複数回にわたる復職命令を拒否しており、重大な業務命令違反が認められる
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(2)企業側の主張が認められなかった裁判例|東京地裁平成28年9月28日判決
【事案の概要】
Xは、建設設計技師としてY社で働く労働者です。原告は、うつ病になり、会社に出勤できなくなったため、休職扱いとなりました。
Yは、休職期間が満了することからXに対して復職の意思を確認したところ、Xは休職期間満了日の翌日から復職する意思を示しました。その後、Xは試し出勤により復職しましたが、Yから休職事由が消滅していないことを理由に解雇されてしまいました。
そこで、Xは、本件解雇が不当解雇であるとして訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
裁判では、Xの休職原因が消滅したかが主な争点となりました。裁判所は、以下のような理由から、試し出勤中になされた解雇が無効であると判断し、企業側の主張を排斥しました。
企業側の解雇が無効とされた理由- 休職原因である「復職不能」の消滅は、従前の職務を通常程度行う状態にある場合だけでなく、相当期間内に作業遂行能力が通常業務を遂行できる程度に回復する見込みがある場合も含む
- Xは、試し出勤中に従前の職務を通常程度行う状態になっていたか、仮にそうでないとしても相当期間内に作業遂行能力が通常業務を遂行できる程度に回復すると見込まれる状況にあったといえるため、休職期間満了を理由とする解雇は認められない
5、まとめ
出勤拒否する従業員に対しては、従業員側に原因がある場合や、企業側に問題があるケースがあるため、まずは従業員と面談を行い、従業員から理由を聞き出すことが大切です。従業員の出勤拒否に正当な理由があれば、その原因の除去などの対策が必要になりますが、正当な理由がない場合には、懲戒処分などを検討していく必要があります。
企業側の対応が法的に問題ないか不安な場合は、弁護士によるアドバイスやサポートが重要になります。ベリーベスト法律事務所
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