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土地収用法とは? 個人が受ける影響を弁護士がわかりやすく解説

2022年10月25日
  • 一般民事
  • 土地収用法
  • わかりやすく
土地収用法とは? 個人が受ける影響を弁護士がわかりやすく解説

平成30年、国土交通省は、土地収用法に基づいて、九州新幹線武雄温泉・長崎間線路建設などに関係する工事の事業認定を告示しました。同事業により建設工事が進められ、令和4年9月23日に九州新幹線(西九州ルート)の武雄温泉・長崎間線路が開業しました。

公共事業を行う目的で、個人や法人の所有する土地について「土地収用」が行われる場合があります。個人や法人は、最終的には、土地収用の対象になった土地からは立ち退かざるを得ない場合が大半です。そして、土地から立ち退く場合には「補償金」が問題となります。

本コラムでは、土地収用法の概要や、行政が提示する補償金額に納得できない場合の対応について、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。

1、土地収用法とは?

土地収用法とは、公共事業の用地を個人・法人から取得する「土地収用」の手続きについて定める法律です。
以下では、土地収用法の概要を解説します。

  1. (1)土地収用法の目的

    土地収用法の目的は、公共事業を通じた公益の増進と、個人や法人が所有する財産(私有財産)の調整を図ることにあります

    大規模な公共事業を行うためには、まとまった広さの用地が必要です。
    しかし、多くの場合、公共事業用地として確保したいエリア内には個人や法人が所有する土地が含まれています。
    まとまった広さの用地を確保するためには、対象エリアの土地を所有する者に立ち退いてもらう必要があります。
    しかし、公共事業を推進すると同時に、土地を失うことになる対象者(所有者)の保護も図る必要もあります。
    したがって、立ち退きによって土地を失う不利益を被る対象者に対しては、正当な補償を行うことが憲法上必要になります(日本国憲法第29条第3項)。

    また、立ち退きを強制することが安易に認められてしまうと、必要性・重要性の低い公共事業のために、対象者の重要な資産が失われてしまうことになりかねません。
    これらの点をふまえて、土地収用に関する手続きの適正化を図るとともに、対象者に対する補償のルールを細かく定めて、公益と私有財産の調整を適切に行うことを目指した法律が、土地収用法なのです。

  2. (2)土地収用の手続きの流れ

    土地収用の手続きは、以下の流れで進行します。

    ① 事業認定申請
    公共事業を行う国や自治体など(起業者)が、国土交通大臣または都道府県知事に対して事業認定の申請を行います(土地収用法第18条)。

    ② 事業認定
    申請を受けた国土交通大臣または都道府県知事は、以下のすべての要件を満たすことを条件として事業認定を行います(同法20条。事業認定を拒否することもできます)。
    • 土地を収用または使用できる事業であること
    • 起業者が、当該事業を遂行する充分な意思と能力を有すること
    • 事業計画が、土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであること
    • 土地を収用または使用する公益上の必要があること

    事業認定の可否を判断する際の参考とするため、公聴会や第三者機関への意見聴取が行われることもあります。

    ③ 収用・使用の裁決の申請
    事業認定が行われた後、認定の告示があった日から1年以内に、起業者は委員7名で構成される収用委員会に対して、収用または使用の裁決を申請します(同法第39条第1項)。

    ④ 審理・現地調査など
    収用委員会は、収用または使用の裁決を行うか否かの判断材料とするため、必要な審理な現地調査などを行います(同法第65条第1項)。

    ⑤ 収用委員会の採決
    審理や現地調査などが完了した後、収用委員会は委員の過半数の決議により、収用または使用の裁決を行います。
    収用または使用の裁決には、「権利取得裁決」と「明渡裁決」の2種類があります(同法第47条の2第2項)。
    • 権利取得裁決:土地に関する権利の取得・損失補償などを定める裁決
    • 明渡裁決:土地の明渡し・物件移転料の補償などを定める裁決

    ⑥ 補償金の払渡し
    権利取得裁決で確定した内容に従い、起業者から土地所有者に対して、権利取得時期までに補償金が支払われます(同法第95条第1項)。
    また、明渡裁決で確定した補償金については、明渡しの期限までに支払われます(同法第97条第1項)。

    ⑦ 権利の取得・明渡し
    権利取得裁決で定められた権利取得の時期において、起業者は土地所有権を取得します(同法第101条第1項)。
    土地所有者は、明渡裁決で定められる明渡しの期限までに、起業者へ土地を引き渡さなければなりません(同法第102条)。

2、行政から土地収用による立ち退きを求められたら断れない?

以下では、国や自治体に土地からの立ち退きを求められた場合に立ち退きを断れるかどうかについて解説します。

  1. (1)交渉段階であれば断れる

    国や自治体が交渉ベースで立ち退きを「お願い」しているにすぎない場合には、それに応じるかどうかは土地所有者の自由です

    「補償金の金額に納得できない」「土地にとどまっていたい」と考える場合には、立ち退きを断ってしまってよいでしょう。
    一方で、もし国や自治体が提示する補償金額が好条件である場合には、立ち退きを受け入れることも一つの選択肢として検討してみましょう。

  2. (2)権利取得裁決が行われたら断れない

    土地収用の手続きが進行して、収用委員会による権利取得裁決が行われてしまった場合には、所有者は土地から立ち退かなければならないことが確定します。
    この段階に至っては、立ち退きを拒否することはできなくなります

3、行政が提示する補償金額に納得できない場合はどうする?

国や自治体などの起業者が、収用委員会に権利取得裁決の申請や明渡裁決の申し立てを行う際には、損失補償の見積もりと内訳を記載した申請書類を提出する必要があります(土地収用法第40条第1項第2号ホ、第47条の3第1項第1号ニ)。

申請書類は収用の対象となる土地が存在する市町村の市町村長に送付され、申請書類の添付書類の内容が、土地所有者に通知されます(土地収用法第42条1項)。そして、申請書類を受け取った市町村長により裁決申請があったこととその対象となる土地の所在等を直ちに公告され、広告から2週間の間、申請書類を公衆に縦覧されることになりますので(同条2項)、損失補償の金額と計算根拠を注意深く確認しましょう。
もし補償金額に納得できない場合には、一定の期間内に収用委員会へ意見書を提出(同法43条1項)して、異議を述べる必要があります。

  1. (1)土地収用の補償金額を算定する際の考慮要素

    土地収用の補償金額は、近傍類地の取引価格等をベースとして決定されます(土地収用法第71条)。

    さらに、以下に挙げる損失も補償金額の算定に当たって考慮されるのです。

    ① 土地の一部が収用される場合における以下の損失
    • 残地の価格減少(同法第74条)
    • 工事費用(同法第75条)
    • 残地の利用が困難になる場合の補償(同法第76条)

    ② 土地上の物件を併せて収用する場合における以下の損失
    • 物件の移転料(同法第77条)
    • 物件の補償(同法第80条)

    ③ その他、土地所有者が通常受ける損失(同法第88条)


    補償金額の妥当性を判断するには、近隣の土地の取引価格を基準にしながら、上記の各要素がきちんと反映されているかどうかを十分に検討しなければなりません

  2. (2)補償金額に異議がある場合は意見書を提出する

    上述のとおり権利取得裁決・明渡裁決の申請書類に記載された補償金額に異議がある場合、土地所有者(または関係人)は収用委員会に意見書を提出することができます。

    意見書を提出する場合、自らが正当と考える補償金額とその計算根拠や、起業者が見落としていると思われる考慮要素などを説得的に明記することが大切です。

    なお、原則として、意見書の提出期間は申請書類の公告があった日から2週間の「公衆縦覧」の期間内とされています
    収用委員会が相当の理由があると認めた場合には、期間経過後でも意見書が受理されることもあります。しかし、基本的には期間を過ぎると受理されなくなりますので、期間内に提出するようにしましょう。

4、行政に立ち退きを打診されたら弁護士にご相談を

土地収用制度に基づく手続きは複雑であり、一般の方には非常にわかりにくい内容となっています。
そして、土地収用に関する裁決がなされてしまうと、所有者は土地を失うという重大な不利益を被ることになります。

土地収用の手続きが予定されている場合には、せんだって行政から任意の立ち退き交渉を持ちかけられることが一般的です。
もし行政から立ち退きを打診された場合には、将来的な土地収用を見据えたうえで、早めに対策を講じるようにしましょう。

弁護士であれば、土地収用に関して見込まれる手続きの内容をわかりやすく解説できます。
また、来るべき土地収用を見据えた対処法についても、依頼者の状況をふまえたうえで多角的にアドバイスすることが可能です。
行政に土地からの立ち退きを打診された方は、お早めに、弁護士までご相談ください

5、まとめ

土地収用に関する収用委員会の裁決が行われると、所有者は土地からの立ち退きを拒否できません。
土地所有者としては、行政から立ち退きを打診された場合、将来的な土地収用の手続きを見据えた対応が必要になります。
適正な補償金額の計算など、難しい論点についても検討しなければならないので、法律の専門家である弁護士に相談しましょう

ベリーベスト法律事務所では、土地収用に関する法律相談を随時受け付けております。
行政に土地からの立ち退きを打診されて、対処にお困りの方は、お早めにベリーベスト法律事務所にご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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