身代わり出頭すると犯人隠避罪に! 頼んだ側も罪に問われる?
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「身代わり出頭」とは、実際に罪を犯した本人の依頼で、別人が警察に対して「私が犯人だ」と名乗り出る行為を指す言葉です。わざわざ犯人の身代わりになるという行為は奇妙に思えますが、全国のニュースに目を向けると、しばしば、身代わり出頭が実際に行われていることがわかります。
特に、交通事故・交通違反の身代わり出頭が目立ちます。しかし、事故現場の目撃情報などから、真犯人が発覚するケースも少なくありません。また、組織ぐるみで大規模の身代わり出頭事件を起こす事例も報道されています。
身代わり出頭は、依頼を受けて出頭した側だけでなく身代わり出頭を依頼した側も厳しく罰せられる、犯罪行為です。本コラムでは「身代わり出頭」が発覚した際に問われる罪について、ベリーベスト法律事務所 長崎オフィスの弁護士が解説します。
1、身代わり出頭は「犯人隠避罪」になる
身代わり出頭は、真犯人の存在を隠して捜査をかく乱させて、適正な刑事手続きを妨害する行為です。
刑法では、身代わり出頭にあたる行為について刑罰が定められています。
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(1)出頭を依頼された側は「犯人隠避罪」
身代わり出頭は、刑法第103条の「犯人隠避罪」によって処罰されます。
犯人隠避罪とは、罰金以上の刑にあたる罪を犯した者や拘禁中に逃走した者を蔵匿・隠避した者を罰する犯罪です。
対象となるのは「罰金以上の刑にあたる罪」にあたる事件となるため、法定刑が拘留・科料のみの場合は本罪の対象外となります。
ただし、法定刑が拘留・科料のみの犯罪はごく限られているので、大半の犯罪に適用されると考えておいたほうがよいでしょう。
「蔵匿(ぞうとく)」とは場所を提供して犯人をかくまうことです。
「隠避(いんぴ)」とは、蔵匿以外の方法で発見・逮捕などを免れさせる一切の行為を指します。
真犯人を隠して「自分が犯人だ」と名乗り出る行為は、まさに隠避にあたる行為なのです。
犯人隠避罪で有罪になると「3年以下の懲役または30万円以下の罰金」が下されます。 -
(2)出頭を依頼した側は犯人隠避罪の「教唆犯」
身代わり出頭で罪に問われるのは、身代わりとして出頭した本人だけではありません。
そもそも、依頼されないと身代わり出頭という罪を犯すことはないので、そそのかした側の責任は重大です。
そこで、身代わり出頭を依頼した者は、犯人隠避罪の「教唆犯(きょうさはん)」として罰せられます。
教唆犯は共犯のひとつの形態です。
刑法第61条1項には「人を教唆して犯罪を実行させた者」について「正犯の刑を科す」と明記されています。
正犯とは「実行犯」や「主犯」という意味なので、犯人隠避罪の教唆犯は犯人隠避罪の犯人として身代わり出頭をした本人と同じように処罰されることになります。
むしろ、身代わり出頭という犯罪を主導したのは教唆犯のほうなので、刑事裁判では教唆犯のほうに厳しい刑罰が科せられる可能性もあります。
2、身代わり出頭で複数の罪に問われるケース
身代わり出頭が発覚したときは、犯人隠避罪だけでなく、本来の犯罪についても責任を問われることになります。
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(1)道路交通法違反に問われるケース
平成29年2月、スピード違反による検挙を免れる目的で、知人に身代わり出頭を強いた男が犯人隠避教唆・道路交通法違反の疑いで逮捕されました。身代わり出頭した男も、犯人隠避罪で逮捕されています。
逮捕された両容疑者は、背丈・体重・顔立ち・髪型がそっくりで、捜査員も見抜けないほどだったそうです。
自動監視によるスピード違反の取り締まりや駐車違反の取り締まりでは、違反したその場で処理されるわけではないため、身代わり出頭が横行しやすい傾向があります。 -
(2)自動車運転処罰法違反に問われるケース
令和2年12月、飲酒運転のうえで追突事故を起こして相手に軽傷を負わせた男が、妻に「自分が事故を起こした」と申告させた疑いで逮捕されました。
このケースでは、事故を起こした男が自動車運転処罰法の「過失運転致傷アルコール等影響発覚免脱罪」に問われています。
身代わり出頭した妻には、犯人隠避罪の容疑をかけられました。
また、令和元年6月には、無免許運転で人身事故を起こして逃走した男が同法の「無免許過失運転致傷罪」の容疑で逮捕されています。
事故のあとで男の妻が身代わり出頭していたため、妻は犯人隠避罪で逮捕されました。
交通事故、特に当て逃げやひき逃げといったケースでは、身代わり出頭がおこなわれやすいようです。 -
(3)強要罪に問われるケース
平成24年、保険金目的でひき逃げ殺人を計画した暴力団員らが、暴力団の名前を出して男性に身代わり出頭を無理やり迫った「強要未遂」の容疑で逮捕されました。
この事例については、男性が実際に身代わり出頭をしなかったことで「未遂」となりましたが、実際に身代わり出頭をしていれば男性本人は犯人隠避罪に、暴力団員らは犯人隠避教唆に問われることになったでしょう。
強要罪は、刑法第223条に規定されている犯罪であり、「生命・身体・自由・名誉・財産への危害を告げて脅し、または暴行を用いて、人に義務のないことをおこなわせる行為」を罰するものです。
身代わり出頭を強いると場合によっては強要罪が成立することになるのです。
3、家族が身代わり出頭すると罪には問われない?
先に挙げた事例では、「夫の身代わりで妻が出頭した」といったケースが複数ありました。
犯人隠避がおこなわれる事例には、妻が夫の身代わりとして、親が子どもの身代わりとしておこなうことが、多々あるのです。
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(1)「親族による犯罪に関する特例」が適用される可能性がある
刑法第105条には「親族による犯罪に関する特例」が設けられています。
親族が犯人の利益のために犯人隠避罪を犯したときには、「その刑を免除することができる」という規定です。
ここでいう「親族」とは、本人の配偶者に加えて、6親等以内の血族と3親等以内の姻族を指します。
親族による「犯人をかくまう」「身代わりになる」という行為は、家族の情愛からみると当然のことと考えられます。
真犯人を知っていても捜査機関にその旨を素直に白状することは期待できないため、このような特例が設けられているのです。 -
(2)必ず刑が免除されるわけではない
犯人隠避罪における親族による犯罪に関する特例は、「必ず刑が免除される」というものではありません。
刑の免除を適用するかどうかは裁判官の判断に任されているため、たとえ家族による犯人隠避でも、厳しい判断が下されることがあります。
このような扱いを「任意的免除」といいます。
なお、任意的免除にあたる事件では、裁判官が刑を免除する可能性が捨てきれないため、検察官が刑事裁判を避けて不起訴とする可能性が高いと考えられます。
4、「書類送検」の意味や流れ
犯人隠避事件の事例に目を向けると、容疑者が「書類送検」されるケースが目立ちます。
平成29年1月に捜査が終結した大手運送会社における駐車違反の身代わり出頭事件では、犯人隠避罪・同教唆で33件62人が摘発され、18人が書類送検を受けました。
以下では、ニュースなどでも見かける機会の多い「書類送検」がどのような意味なのかについて、解説しません。
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(1)「書類送検」とは? 「送検」との違い
実は、「書類送検」という法律用語は存在しません。
書類送検とは、刑事事件について捜査書類と証拠品のみが警察から検察官へと引き継がれる手続きを指す、マスコミ用語なのです。
同じようにニュースなどの報道でみかけるのが「送検」ですが、こちらは警察が容疑者を逮捕し、その身柄とともに捜査書類と証拠品が検察官へと引き継がれる手続きを指しています。
つまり、書類送検と送検の違いは「逮捕されたかどうか」です。
なお、いずれも正確な名称は「検察官送致」であり、法律用語としては区別がありません。 -
(2)書類送検の流れ
書類送検の流れは、下記の通りになります。
- 容疑者として特定される
- 警察から出頭要請を受ける
- 任意の取り調べがおこなわれる
- 警察の捜査が終了し、検察官へと書類送検(送致)される
- 検察庁への出頭要請を受けて取り調べを受ける
- 検察官が起訴・不起訴を判断する
逮捕を伴う事件では、逮捕から送検までに48時間以内のタイムリミットが設けられています。
さらに、検察官のもとでも24時間以内の制限が設けられたうえで「勾留」の要否が判断され、勾留が決定すると起訴・不起訴の判断までに最大20日間の身柄拘束を受けることになるのです。
一方で、書類送検される事件では、逮捕を伴う事件のような時間制限がありません。
身柄拘束を受けないという利益があるものの、捜査が長期にわたり、何度も出頭を求められることがあるという点では不利だといえます。 -
(3)書類送検だと刑が軽くなるわけではない
書類送検と送検の違いは「警察に逮捕されたかどうか」です。
このように説明すると、逮捕された送検事件のほうが刑が重く、逮捕を伴わない書類送検の事件では刑が軽いように感じられるかもしれません。
しかし、書類送検の場合でも、検察官が起訴に踏み切れば刑事裁判が開かれます。
反対に、逮捕を伴う送検事件であっても、検察官が不起訴処分を下せば刑事裁判は開かれないのです。
書類送検だからといって刑が軽くなるわけではありません。
事件の被害者との示談などの対策はいずれにせよ欠かせないので、弁護士に相談してサポートを求めることが大切です。
5、まとめ
罪を犯した本人ではない別人が、犯人として警察に名乗り出ることを「身代わり出頭」といいます。
身代わり出頭をした側は刑法の犯人隠避罪、身代わり出頭を依頼した側は犯人隠避の教唆犯になるため、どちらも罪を逃れられることはできないのです。
身代わり出頭で犯人隠避罪・教唆犯として容疑をかけられてしまった場合は、たとえ逮捕されず書類送検になったとしても、刑事裁判が開かれる可能性があるために、弁護士に相談して対策を行うことが重要です。
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